こわい頭痛・こわくない頭痛 伊崎脳神経外科 伊 崎 明 こわい頭の病気といったらみなさんは何を思い浮かべますか? 腫れ物ができる脳腫瘍、年をとってくるにしたがって心配になる痴呆(ボケ)、いきなり倒れて半身不随のような後遺症をかかえる脳卒中、いずれ劣らぬやっかいな病気ですが、このなかで頭痛で始まるものは以外と少ないことはご存じでしたか? 脳ミソという臓器は意外に鈍感なところがあって少々のことがあっても痛みを感じないのです。したがってみなさんの多くが経験したことのある頭痛は、脳ミソの痛みではなくて頭皮の神経や血管の痛みであることがほとんどで、いわゆるこわくない頭痛です。 一方こわい頭痛の代表は、くも膜下出血の頭痛です。こわくない頭痛との一番の違いは”頭痛の始まり方 “です。大きな動脈にできた瘤から出血しますので、症状はまさに”一瞬 “に始まります。”ハンマーでいきなりなぐられた “とか”やけ火箸でいきなり後頭部を突き刺された “というように前ぶれなしに突然おこります。また、ほとんどが後頭部に痛みを感じることも特徴です。従って徐々におこったもので頭の片側とか前の方の痛みであれば、くも膜下出血の可能性は低いといって良いでしょう。 働きざかりの50歳前後の人をまえぶれもなく襲うくも膜下出血は大変こわい病気です。いったん発症するとおよそ3分の1の人が即死するといわれるこの病気の原因は、頭の血管にできる癌(こぶ)で100人に一人が持っているといわれています。持っていない人には全く無縁の病気ですが、動脈癌がある人は、年間1%の確率でくも膜下出血を起します。成人病のように予防ができる病気ではありませんので、最近ではMRIという特殊な機機を使って発症前に診断する方法が脳ドックとして行われるようになりました。 心配な方は、専門医に相談されると良いでしょう。 (平成10年5月掲載) |
脳 卒 中 岡内科医院 岡 孫 呉 脳の血管の異常で突然倒れるのが脳卒中。主なものは「脳出血」と「脳梗塞(のうこうそく)」です。脳内の細い血管が圧力に耐えきれなくなって、その壁が破れて起こるのが「高血圧性能出血」で脳の血管が動脈硬化によって詰まる病気が「脳梗塞」です。脳卒中の原因となるものを脳卒中の「危険因子」といいます。その主なものは高血圧、食塩のとりすぎ、肥満、糖尿病、高コレステロール血症などです。これが多い人ほど脳卒中になる危険性も高くなります。ただし、これらの危険因子をコントロールできれば、脳卒中はかなり予防できるので危険因子をしっかり把握しておく必要があります。具体的に脳卒中を起こさないために、次の事に注意してください。 第一には急に血圧が上がるのを避けることです。冬の寒いとき、暖かい布団の中から冷たいトイレに行ったり、朝早い外出などで急に寒い目に会うと血圧が上がります。また、ストレスがたまったり、体が疲労しているときも要注意です。ひどく緊張したり興奮したりするのも良くありません。高血圧の治療を中断すると血圧が急に上がる危険があります。 第二に血液中の水分が不足すると血液が固まって血管が詰まり易くなります(脳梗塞)。例えば、吐いたり下痢したりしたとき、あるいはサウナや長風呂などで体の水分が不足しがちになります。老人ではその傾向が強いので、注意してください。 脳梗塞は脳出血とは逆に血圧が過度に下がったときに起こり易くなります。血圧が下がる睡眠時に脳梗塞の発作を起こすこともよくあります。高血圧の治療中は定期的に血圧を計ることが大切です。 (平成8年12月掲載) |
ふえている滲出性中耳炎 下山耳鼻咽喉科医院 下 山 高 生 耳は鼓膜より外側を外耳、内側を中耳と呼びます。中耳は空気の入った小部屋で、外気と同じ気圧に保たれていると鼓膜の振動がうまくいって、音がよく聞こえます。中耳の空気圧を外気圧と等しくするために、耳管という管が中耳と上咽頭を連絡します。 さて、中耳炎というのは、中耳に細菌が侵入し、炎症を起こした状態です。この細菌は風邪などで鼻や咽頭(のど)に炎症があるときに、耳管を通って中耳に入ります。風邪の経過中に急に耳が痛くなるのは急性中耳炎です。急性中耳炎は抗生剤などの服用や鼓膜切開して膿を出したら、1〜2週間で治癒します。 ところが最近、1か月程たっても軽度ないし中程度の難聴が残る場合が増えているのです。このとき、中耳には滲出液が貯留しています。滲出液は水のようなものや濃い粘液のようなものがあります。このような状態を滲出性中耳炎と呼んでいます。 つまり、滲出性中耳炎は、痛みは無く、軽度ないし中程度難聴の状態と言えます。急性中耳炎なったとき、痛みは1日程度でとれますが、滲出性中耳炎に移行することも多いので、完治するまで治療しないと、難聴が残ります。 また滲出性中耳炎は、急性中耳炎を経て起きるものばかりではなく、痛みなく知らないうちに難聴になっていることも多いのです。幼児は難聴を訴えませんから、お母さんがよく注意して、発見することが大切です。「呼んでもすぐ返事をしない」「何回も聞き返す」「テレビの音を大きくしたがる」などの症状がないか観察して、早期発見をしてください。 (平成8年9月掲載) |
ちくのう症(副鼻腔炎)とは 海江田医院 海 江 田 晃 鼻の働きはただ匂いをかぐだけでなく呼吸の最初の通り道で吸気の際、加温加湿清浄といった重要な働きをしています。まず鼻の構造を説明してみます。鼻は鼻中隔という障子のような板で左右にわけられ更に鼻甲介という粘膜のかたまりによって上中下の鼻道に分かれています。副鼻腔炎は左右対称に眼の下(頬部)にある上顎洞・眼の内側にある篩骨洞・眼の上(眉毛)にある前頭洞・鼻の奥にある蝶形洞からなりそれぞれが自然孔という細いトンネルによって鼻腔につながっています。 さて、一般に蓄膿症とは、この副鼻腔に膿がたまった状態をいい副鼻腔炎ともいいます。原因は、カゼなどにより反復する細菌感染が多くその他アレルギー性鼻炎や大気汚染ストレスなどがあげられます。では症状として鼻汁鼻づまりが主で、鼻汁は膿や粘液がむしろ喉の方へ流れることが多く痰のような症状がつづきます。また鼻づまりは鼻甲介の粘膜のはれや鼻茸(ポリープ)によっておこります。ひどくなると匂いもわからなくなることがあります。 その他頭痛、副重感や眼のつかれや注意力散漫などの鼻以外の症状がみられるのも特徴です。 治療としては、対称療法で鼻腔の中に霧状の薬を送り込むネブライザーと膿をとかして排出させ粘膜のはれをへらす薬を飲む内服療法がありいずれも長期的に行います。このような治療で改善されない時は手術となりますが手術をすれば治るというわけではなく術後もしばらく対称療法が必要です。このように蓄膿症の治療は非常に根気のいるもので一度受診したからといって治るものではありません。 しかし、鼻は先に述べたように非常に重要な働きをしており鼻を気持ちよく長いつき合いをするために上記の症状がみられたら早めに耳鼻科に受診することが望ましいと思います。 (平成9年12月掲載) |
ドライアイ いわさき眼科医院 岩崎むつよ 泣き笑いにつきものの「涙」は、眼の健康にはとても大切なものです。涙は主に涙腺で産生され、私たちが無意識にしている瞬きにより眼球表面に均等に分布されています。 涙の第一の役割は、凹凸不整の角膜(黒目を角膜と呼びます)表面をなめらかにして透明さを保つという光学的役割です。第二の役割は眼球表面にある異物を洗い流してしまう役割です。第三は眼球表面をなめらかにして、瞼や眼を動かす時、摩擦を軽減し、潤滑剤として役立っています。第四は涙にはリゾチーム等の殺菌物質が含まれており、殺菌作用を持っています。第五は緩衝作用による眼の恒常性を維持しています。 このような大切な役目を担っている涙に量的質的異常がおこると眼球表面に変化が生じて来ます。ドライアイとはこの涙の減少が生じていることをいいます。これには涙の分泌能が低下している場合と、分泌能は正常でも、涙液の過度の蒸発に基づくものがあります。前者は加齢による生理的なものの他に涙腺の疾患により生じます。後者は冷暖房設備により湿度の低下した部屋の中や、また編み物や読書など、精神集中を要する仕事で、瞬きの回数が減少する場合、窓を開けたままの車の運転など風の当る状態では普段無症状であっても自覚症状が出現してくることがあります。症状として眼乾燥感だけでなく眼精疲労、異物感、まぶしさ、眼痛等多彩な症状を引き起こして来ます。 また内科の疾患と合併することもあるので注意が必要です。 (平成10年7月掲載) |
肝炎ウィルスのABC 吉田内科クリニック 吉田俊二郎 ウィルス性肝炎の原因となるウィルスは現在、A,B,C,D,E型の5種類が発見されています。このうちA型とE型は経口感染(ウィルスに汚染された食物や飲料水を介して感染)であり、一過性の急性肝炎で終わってしまいます。まれに劇症肝炎になり死亡することもありますが、大部分は治ってしまって慢性肝炎となることはありません。そして日本にはA型のみで、E型肝炎はまずありません。ワクチンは実用化に向けて開発中です。 次にB型肝炎ウィルスですが、これは急性肝炎も慢性肝炎もひきおこします。感染は血液や体液を介して成立しますが、成人が感染しても急性肝炎で終わり慢性肝炎にはなりません。B型慢性肝炎は乳幼児期にウィルスを持っている母親から感染をうけ、そのうちの一部の人におこってくると言われています。現在は国の政策で、この母子感染予防のために、ウィルスを多量に持った母親から生まれた子どもにはワクチンを接種する ようになっていますので、患者数はずい分減ってきています。将来はB型慢性肝炎は撲滅できると思われます。 C型肝炎ウィルスも大部分は血液を介して感染しますが、B型と大きく異なるのは母子感染はほとんどなく、輸血やその他の何らかの経路で、成人になってから感染して肝炎をおこします。急性で終わる場合は少なく、約8割ぐらいが慢性肝炎になります。数年前から輸血用の血液もチェックできるようになり、今では輸血による感染はまず無くなりました。 D型肝炎ウィルスは単独では存在できず、B型肝炎ウィルスに寄生して存在すると理解されてよいでしょう。日本ではこのウィルスの感染は、ほとんど無いと言われています。 最近6番目のウィルスとしてG型が発見されました。B型、C型以外の慢性肝炎の原因を解明できるかと期待されましたが、現時点では持続的な感染はあるけれども慢性肝炎の原因ではないとの見解が強いようです。 (平成9年4月掲載) |
スポーツ障害とは 橋口整形外科医院 橋 口 剛 志 年々多くの人たちがスポーツを楽しみ、ストレス解消や体力の増進、健康の維持向上を目ざして頑張っておられます。大変素晴らしいことでありますが、最近はスポーツのしすぎによる障害も見逃せなくなってきました。 スポーツ障害には、一回の外力によっておこるスポーツ外傷と小さな力が頻回に作用しておこるスポーツ障害があります。 我々の身体はスポーツ活動による疲労が生理的範囲であれば、一定の休息によって回復し再びスポーツを続けることができます。ただし、その範囲を越えて疲労すると使いすぎによる障害(オーバーユース症候群)が起こってきます。よく見られるのは、肘関節(テニス肘、野球肘)、膝関節(ランナー膝、ジャンパー膝)、足関節(疲労骨折、足底腱膜炎)などに痛みがおこり、次に腫れや炎症、内出血がみられるようになります。このような変化がひどくなると将来関節が動かなくなったり、変化が起こったりするので、早い時期に対策を考えねばなりません。成長期には骨の成長速度より腱や靱帯の発育が遅く、腱や靱帯は常にひっぱられた状態(緊張状態)にあるために障害をおこし易いのです。更に発育線や軟骨も皆さんが考えておられるよりは外力に対する抵抗力が弱く、腱や靱帯より先に傷つくこともあるので注意しなければなりません。 最近の子どものスポーツは、組織化され、試合に勝つことを優先する傾向が強いようです。このような姿勢にも影響されているのではないでしょうか。皆さんも翌日に痛みが残るようなら使いすぎと考え、練習量を減らすとか、回数を少なくするように心がけられた方がいいでしょう。もし痛みがとれないときには早めに専門医に、ご相談されることお勧めします。 (平成8年10月掲載) |
食べ物と健康 近藤医院 近 藤 洋 人間も動物も食べ物からエネルギーをもらい体を作って生きてゆきます。 健康な身体を維持して行くためには、いろいろな食べ物が必要です。必要な食べ物には、個人差があり、特に年齢が関係します。食べ物は、色々の栄養素でできていて、@炭水化物A脂質Bたんぱく質C無機質Dビタミンなどがあります。それぞれの栄養素には特徴があり、炭水化物、脂質、たんぱく質はエネルギー源になります。無機質、ビタミンは、補助的栄養素で、保全素と呼ばれます。炭水化物は、上質のエネルギー源です。脂質、たんぱく質もエネルギー源ですが、いくらか有毒ガスを発生する欠点を持っています。たんぱく質は、エネルギーを発生しますが、本来、筋肉、内臓等身体を構成する栄養素です。脂質には、動物性脂肪、魚油、植物性脂肪があります。その内容は、中性脂肪と、コレステロールです。脂肪は動脈硬化を増悪させる働きがあります。特にコレステロールは害が大きいようです。動物性脂肪はコレステロールを増やす働きがあります。魚油や植物性脂肪はコレステロールを減らす効果があります。若い世代には、成長のためにたんぱく質、エネルギーがかなりの量が必要です。高年齢ほど成長がないので、たんぱく質の必要量は少なくなり、エネルギーも多過ぎると、脂肪を増加したり、太り過ぎの原因となり問題があります。老化予防の食事法@朝食豪華にゆったり、夕食は控えめに。A塩辛いもの、砂糖分を控える。B総カロリーを控えめに。Cエネルギー補給には主に炭水化物で。D肉やバターより魚とマーガリン。 人間の身体は順応力が強いので、余り神経質になる必要はなく、気楽に程々の注意で、食生活を楽しみ、健康な生活を送ってください。 (平成9年11月掲載) |
子供の遠視について 計屋眼科医院 計 屋 隆 子 近視については一般的に関心が高いようですが、遠視についてはあまり知られていないのが実情のようです。眼に入る平行光線が網膜の後方に焦点を結ぶのが遠視です。子供の場合遠視は特に重要です。網膜にピントが合うことによってはじめて視力は良好に発達してゆきます。ピンボケのままに放置されますと視力の発達が止りレンズを当てても視力が矯正出来ない、いわゆる遠視性の弱視という状態になります。視力等の機能は、ほぼ6才頃には完成すると言われていますので、小学校過ぎてから眼鏡で矯正してもなかなか思うようには視力は向上しないのが実情です。就職や進学のシーズンになりますと、毎年何人か、矯正視力の出来ない高校生が、何とか視力を出す方法がないものかということで眼科を受診して参ります。その殆どが遠視性の弱視であります。残念ながら眼科でも、コンタクトレンズでも矯正出来ないことをお話するしかありません。出来るだけ早期に遠視性弱視を発見して網膜にピントを合わせてやることが大切です。遠視の場合、発見が遅れやすいことと、もう一つの問題は親御さんや社会の、眼鏡に対する偏見であります。小さい頃から眼鏡を掛けさせるのはかわいそうとか、いじめられるのではという危惧から、眼鏡は掛けさせたくないと思っておられるようです。学校の視力検査では、0.7以上あっても遠視の場合は眼鏡を必要とする場合があります。遠視の場合は特に近くが見にくいのです。教科書の小さな字が見えにくくて不自由しているお子さんは結構います。遠視のお子さんは、良く見える眼鏡があれば掛けたいと切実に思っているようですが、親御さんは眼鏡は掛けさせたくないというのが本音のようです。そこで「眼鏡を掛けていると、掛けない時の視力も上がってゆき、そのうち掛けなくても良くなるかもしれません。少なくとも眼鏡を掛ければ視えるという状態にしておかないと将来困ることもありますよ。遠視の婆場合は眼鏡を掛けることが治療です。」と説明しますと、やっと決心がつかれるようです。眼鏡が出来上がって、お子さんが喜んで掛けているのを見たり、学校でも不自由しなくなったということを言ったりするのを聞いてはじめて、今までいかに子供が不自由していたかということに思い至られるようであります。 (平成11年1月掲載) |
「ぢ」の病い 原医院 原 哲 弥 「痔」と言う字は、病いだれにお寺と書くとは、「昔は、お寺に行くときまで治らんじゃったけんたい」と大学の外科の先輩から聞きました。多分ひどい痔のことを言ったのでしょう。消化管のいちばん末端である肛門の痔が悪い人は結構いるのですが、治らないまま我慢している人が多いのです。痔といってもいろいろで、裂肛、痔痩、痔核、脱肛というように、その原因もそれぞれ異なっています。 裂肛とは「きれぢ」で、硬い便、力みで裂け、出血、ひどい痛みがあります。痔瘻は肛門のすぐ奥の肛門小窩から細菌が感染し、穴が通じて、切開しない限り治りません。痔核は一般に言う痔で「いぼぢ」のことです。肛門の血管のうっ血によるもので、外側のものと、内側のものがあります。脱肛は肛門がひっくり返り、よく内痔核を伴っています。 痔のひどいものは薬だけで治らず、結局、手術をしなければ治りませんが、外科のなかの肛門外科は、全国的に、大学に指導する教授が少ないこと、学会が少ないことで、進歩がないために、手術をしてもあとが悪かったり、長く病院に通っても、手術をしないでいて、いよいよ来院なさる人が結構おられます。 私の恩師、久留米大学名誉教授脇坂順一先生のお父様は、戦前、福岡の天神で痔の専門病院をなさって、旧満州、朝鮮からまで患者さんが来たそうで、教授に指導を受ける機会を得たことは幸いでした。 痔の予防は、おしりをきれいにし、下痢、便秘をしない、規則正しい排便の習慣、長時間座らない、運動、冬の寒いときに注意する、出産のあとは、ストレスもよくありません。 受診なさる方の過半数は、悪くなって手術をしなければならない人で、手術が終って、患者さんから「こげんことなら、もっと早うすればよかったです。」と言われるときが、外科医として最高に嬉しいときです。 (平成9年7月掲載) |