乳がんのセルフチェック

山下外科医院
山 下 直 宏

 乳がんは年間約3万人が新たな患者となり、二十一世紀には女性のがんのトップになると予測されています。乳がんは医師が診断して初めてわかる病気ではなく、本人がまずおかしいと感じるものです。乳がんは消化器がんなどに比べて一般に成長が緩やかであり、急に大きくなったり固くなったりすることは少なく、もしやと感じて病院に行く人の多くは、実はその1年も2年もまえからシコリに触れていた可能性が高いのです。
 それでは実際のセルフチェック(自己検診)の方法を述べてみます。
 〈いつするのか?〉毎月一回チェックすることをお勧めします。閉経前の人は月経開始5日目から1週間の間、閉経後の人は毎月一回忘れない日に行うのがよいでしょう。これから始めようとする人は、最初はなるべく頻回に行い、日頃の乳房の状態や月経周期による乳房の変化を知ると自信がでてきます。
 〈どのようにするのか?〉まず鏡の前に立ち、乳房の形の変化、色の変化、ひきつれがないかを見ます。さらに乳頭にかさぶたや湿疹がないかを見ます。続いて座るか横になって、乳房全体をまんべんなく触ります。触る乳房と反対側の手を使いますが、3ないし4本の指を揃え、乳房を軽く押さえながら、一円玉の大きさの円を少し重ねて描くようにします。乳腺表面の凹凸を感じながら力を入れないでゆっくりと触ります。同じところを2回目は力を入れて触ります。とくに気になるところがあれば人さし指と中指の2本で、交互にピアノを弾くようにして押さえてみます。最後に乳頭や乳頭付近の乳房をつまみ圧迫して、乳頭から異常分泌があるかどうか見ます。妊娠、授乳期以外のときに分泌物を認めた場合は異常であり、血性であればとくに注意が必要です。
 習慣化すれば素人でも2センチ(一円玉の大きさ) のシコリなら十分に気づきます。しかし、せっかく気づいても放置しておいたのでは見つけないも同然です。異常に気づいたら素人判断は避けて外科などを受診しましょう。この数年間は乳房温存術(乳房を残す乳がんの手術)が普及し、3センチ以下の大きさなら、温存術の対象になることも多いのです。
(平成10年9月掲載
スギ花粉症の話し

山口耳鼻咽喉科医院
山 口 慶 治

 2月上旬からの眼のかゆみ、くしやみ、鼻水、咳に悩まされている方がみなさんの周囲にも多いと思います。春2・3月のスギ花粉は有名ですが、3月中旬のヒノキ花粉、5月連休からのイネ科カモガヤ花粉、秋のヨモギ花粉、11月中旬に約2週間、局地的にスギ花粉が舞うのが、大村での1年間の花粉周期と言えます。
 インフルエンザ流行の年には花粉症がひどいと言われます。インフルエンザで傷んだ鼻、気管粘膜での花粉に対する過敏性が亢進するためとされていますので、今年は重傷の方が多いと思われます。空中に飛散したスギ花粉は鼻・眼・気管粘膜に付着します。
 水分を吸った花粉は破裂し粘膜内の抗体とアレルギー反応をおこします。眼では眼のかゆみ、鼻ではくしゃみ・鼻水、気管では咳となります。たかが鼻水といっても1日にティッシュ1箱を使う鼻水が約2か月間毎年続くのですから大変です。人口の約15%がスギ花粉症ですから大村には約1万人の患者さんがいらつしゃることになります。後に述べるアレルゲンテストの陽性者を大村で調べたところ男女とも40歳代にピークがあり、女性が男性の約2倍となっています。
 花粉症の診断にはいくつかのアレルゲンテストがあります。鼻水の中に好酸球という細胞を捜す染色法、鼻粘膜に花粉液を1滴たらす誘発法、ツ反のような皮膚反応、採血してスギ抗体を検出する方法などがあります。花粉マスクなどの予防法はご存じと思います。最近では抗アレルギー剤を1月下旬から予防的に内服するのが一般的のようです。近医で相談され服用されるとよいでしょう。それでも駄目な人には鼻粘膜の外科治療があります。鼻粘膜に薬液を塗る方法、赤外線、高周波電気凝固、レーザーを鼻粘膜の約2p四方に当てる方法があります。術中は無血であり、夏、秋季に行うと翌年の花粉の季節には約半数の人には喜んで頂けると思います。
 一度発症すると毎年おこる花粉ですが、予防が第一と考え治療をおこなってください。
(平成9年3月掲載)
痔 の 話

山道医院
山 道 博 敏

 私たちの日常の経験によると、医学が進歩して、時代が新しくなると、古い病気が姿を消してしまったり、新しい病気ができたりします。ただし、痔に関するかぎり、今も昔もあまり変わった点がありません。もちろん手術法などはかなり変わって進歩しています。
 痔は大別すると痔核、切れ痔、痔瘻です。それぞれを簡単に説明すると痔核には内痔核と外痔核があり、問題は内痔核です。初期の軽度のもの、すなわち出血はするが排便時に肛門外へ脱出しないもの(第1度)から排便時に肛門外へ脱出するが自然にもとへ戻るもの(第2度)、押し込まないと還納できないもの(第3度)、常に肛門外へ脱出しているもの(第4度、俗にいう脱肛)まであります。排便の際に鮮血がありますが疼痛はほとんどありません。時に、肛門全周に痔核が脱出し、もとに戻らず血栓および腫脹や浮腫をきたした、いわゆる篏頓痔核には激痛がおこります。切れ痔とは、肛門の真後ろに多く、ときには前方にもできます。非常に痛いもので、何度も繰り返すと潰瘍になります。若い女性は、よくこの切れ痔になります。痔瘻とは、肛門の回りに穴があいて、膿がでて不愉快なものです。肛門に菌が入り化膿し、破れて外に口があいて治り難い管となったものが痔瘻です。早く確実な手術によって完全に治すことが賢明です。10年以上痔瘻が治らないとガンが起ってくることがあります。
 結局どのような病気でも、治すことよりも病気を起こさない事が最も大切なことです。また外科的な治療は医師側から言うと、痔を切り取ることに通じます。患者さんの側から言うと、血をみて痔とお別れすることです。でも一般的には、患者さんは外科療法を敬遠し、薬物療法に魅力を感じるようです。また部位が大便を排出する所であることと生殖器に近い所から、人に見せるのを嫌い、自分自身で手軽に人知れず治療したいために、薬物療法への魅力が倍加されるようです。でもここに間違いがあるようで、軽い症状でも専門医に診てもらうのが一番でしょう。なぜなら隠れた悪性腫瘍などが多々あるからです。自分の体のことをよく考えられて、どんな病気でも早期診断、早期治療がベストであることをよく覚えていてください。
「しっかりと尻たたかれて痔の話」
(平成8年11月掲載)
じん麻疹について

寺井医院
寺 井 大 八

 時代の変遷と共に様変わりした病気の一つがじん麻疹ではないでしょうか。昔は「鯖を食べて」「タケノコを食べて」「寿司を食べて」急にかゆくなり、飛び込んでくる患者さんが多かったのですが、最近はこのうな即発型反応と云われるじん麻疹は少なくなりました。
 かわって増えたのが「夕方から夜(一部は朝)、入浴、布団で暖まると、圧迫したり擦ると、急に冷たい水に手を入れると…」など物理的刺激によるもの、あるいは食品添加物、薬品などが多いようです。またストレスによるものもあります。
 じん麻疹というのは一時的に急にかゆくなる限局性浮腫〈みみず腫れ)であり、大抵は数時間で消失します。これが一か月以上繰り返すものを慢性じん麻疹といいますが、この8割は発生の原因となるものが特定出来ないといわれています。
 一般的治療法としては、まず第一に原因となったものの発見につとめ、それを除去することが大切です。しかし今まで述べてきたように原因が分からず繰り返すことがよくあります。私は患者さんに「多様化する多忙な世の中だが、極力明るく過ごしましょう」と言って、規則正しい生活、充分な睡眠、アルコールは出来るだけ控えめに、そして疲労を避けるように指導しております。薬物療法としては抗アレルギー剤が多く世に出ておりますが、これはやはり医者にかかって服用されるようおすすめします。この薬はよく効きますが、副作用として眠くなるのが欠点です。
(平成10年4月掲載)
婦人科のガンについて

レディースクリニックしげまつ
重 松  潤

 平成9年のガンによる死亡者数は、一昨年までと同じように死因別の1位でした。そして、その数は2位の心臓病の2倍近い多さでした。そこで、今回はガンについて、とくに婦人科のガンについて、少し書いてみます。
 婦人科のガンで代表的なものは子宮ガンと卵巣ガンです。どちらのガンも若い人から老人までなる可能性があります。
 子宮ガンの症状で最も多いのは、性器出血です。しかし、性器出血を起こす病気はたくさんあります。特に、若い人ではホルモンのバランスの異常によることが多く、老人ではホルモンの不足によることが多いです。ですから、性器出血があっても、いきなりガンを心配することはありませんが、ガンであることがありますので婦人科を受診してください。
 いっぽう、卵巣ガンは子宮ガンと違って出血がありません。ですから、お腹が大きくなって初めて自分で異常に気付くということがあります。
 子宮ガンも卵巣ガンも初期に見つかれば完全に治ります。ですから、どちらも初期の段階で見つけることが大切です。それには定期的に検診を受けることです。婦人科の検診は、胃や腸の検診のように、食事を抜く必要がありませんし、痛みもなく時間もかかりません。
 ところで、ガンが見つかるのが恐いから検診に行かない、という方がおられます。ガンかもしれないのに受診しない方がよほど恐い気がします。思い切って受診して、あとは安心して1年を過ごす方がずっと良いように思えますが、いかがでしょうか。
(平成10年3月掲載)
発熱について

小児科内科しげの
重 野 勝 彦

 人間の体温は脳の視床下部にある体温調節中枢によって維持・調節されています。発熱のおこる原因は主に次の三つがあります。
一、外因性発熱物質の関与
 細菌・ウイルスなどの病原微生物、腫瘍、抗原抗体反応などを外因性発熱物質といいます。外因性発
熱物質は白血球に食べられると、白血球は活性化されて内因性発熱物質を産生します。内因性発熱物質は視床下部の体温調節中枢に作用して体温を上昇させます。これは内因性発熱物質がプロスタグランジンE(PGE)の合成を促進することでなされます。解熱剤はこのPGE合成を抑制することで解熱させます。
二、熱放散の障害
 高温多湿の環境下(熱射病)などでは熱の放散が抑えられ体温は上昇します。
三、中枢性発熱
 体温調節中枢に病変が及ぶために起こる発熱で、脳腫瘍や脳炎などがあります。
 日常みられる発熱は前記のうちの一で、その中でも病原微生物によるものがほとんどです。この場合、体温調節中枢は前記三のように体温を調節できなくなったのではなく、わざと体温を高めに設定しているのだと考えられています。発熱は生体防御機構の一つで、白血球の働きを高めます。
 一方、発熱は食欲不振・睡眠障害・不安などで体力を消耗させます。ですから解熱剤の使用は、これらの症状の改善という目的を持って行うべきです。また発熱はかなりの体力を消耗させるので、十分な休養と睡眠をとることが大切です。
 悪寒戦慄は体温調節中枢が設定している高い体温との格差が大きいために、骨格筋がふるえて熱を産生している状態です。こんな時は毛布などで保温に努めて下さい。
(平成10年2月掲載)
食 中 毒

出口小児科医院
出 口 雅 経

 食物摂取による中毒、すなわち食中毒は6月〜10月に多く、厚生省資料によると集団発生例は、年間、1,000件〜1,500件で患者数は3〜4万人です。この他に胃腸炎、、下痢症として報告されているものが数多く存在します。
 食中毒の多くは、腸炎ビブリオ、サルモネラ菌、カンピロバクター、ブドウ球菌、ボツリヌス菌や話題になっている病原大腸菌などが主な原因細菌です。
腸炎ビブリオ 主要症状は、嘔吐、激しい腹痛、下痢、軽度の発熱です。便は水様性であることが多く、血便、粘血便がみられることがあります。特に、日本で多いのは海産魚介類の生食嗜好によるものです。この菌は海に棲息し、海水温度が上昇する夏は増殖が著しく、大村でも学校給食にだされた魚の酢物和えで、600人の生徒の集団発生がありました。本症を防止するには、真水で海産魚介類をよく洗うことです。
カンピロバクター わが国は、海外からの食物輸入に依存しています。各家庭に冷蔵庫や冷凍庫が普及し、多くの菌は冷凍すると死滅するのが多いが、カンピロバクターはマイナス70℃でも生存しており動物の肉類、内臓、鶏肉、鶏の皮に多く付着しています。私たちは、焼き肉や焼き鳥として肉を食べる機会が多いので、肉をよく焼き、よく煮るように心がければ中毒は防止できます。
サルモネラ菌 本菌による食肉の汚染率は極めて高く、特に鶏肉、豚肉の汚染は著しく、鶏卵も重要な感染源で、産卵後、卵殻表面に付着した母鶏の糞便から汚染した卵や、卵殻が薄いもの、ひび割れたものは捨てたほうがいいでしょう。
ブドウ球菌 クリーム類やポテトサラダを食べた後、数時間で激しい嘔吐、腹痛をみると本菌によるものが多い。
 食中毒の防止は食物を水でよく洗い、よく煮る、よく焼くことが大切であり、調理する人もよく洗うことを心がけてください。食中毒にかかったと思ったらすぐ医師を訪れ、適切な治療を受けて健康な生活を過ごしましょう。
(平成8年8月掲載)
妊娠と肥満

おび産婦人科医院
小 尾 重 厚

 最近、赤ちゃんの体重が減ってきていることはご存じでしょうか?1975年(昭和50年)平均男児3,240グラム、女児3,150グラムであったのが、1995年(平成7年)平均男児3,110グラム、女児3,030グラムになっています。
 妊娠というものは、一度に母親(妊婦)と胎児という二つの生命が関わります。太り過ぎはそれぞれに多大な悪影響を及ぼします。
 まず妊婦をみてみますと、妊娠中毒症を約20%が発症し、妊娠中毒症の約50%を肥満妊婦が占めています。分娩時には、とくに初産婦では予定日超過・微弱陣痛・遷延分娩などにより帝王切開や吸引分娩が増加し、分娩時出血も増加します。40%以上の肥満(身長160センチでは80キロ以上)では帝王切開は約35%にもなってしまいます。
 赤ちゃんに及ぼす影響は、周産期死亡(簡単に言うと、お産の時、赤ちゃんが何人死ぬか)が2〜3倍にもなってしまいます。
 このように、太りすぎることは母児双方にとって好ましくありません。食生活が非常に厳しかった昭和10〜20年代は、妊娠したら「赤ちゃんの分も二人分食べなさい」は正しいことでした。しかし今は、「グルメ・飽食・外食」の時代になっています。常日頃、必要十分な栄養は摂取される時代ですから、「妊娠したら二人分」ではなく「妊娠したら栄養配分に注意し、食べすぎないように!」という配慮が必要なのです。
 1980年代に、妊婦の肥満について詳細な検討が成されました。肥満妊婦からは大きな赤ちゃんが多く生まれますが、最近は多くの産婦人科で肥満についての適切な指導が成されるようになってきているため、赤ちゃんの体重も日本人の体格に相応したところになってきているのです。
(平成10年5月掲載)
ぼけ(痴呆)ないために

松井医院
松 井   道

 年をとれば、個人差はあるものの、頭の働きが鈍くなり、記憶力が低下して人の名前を忘れたり、物をしまい忘れたりするものです。高齢者の脳は神経細胞が減少し萎縮しているからおこる生理的現象といえます。ところが、物をしまった場所をすぐ忘れる・物忘れが目立つ・計算や知的な作業ができない・意欲がない・外出して戻らないなど場所や時間がわからない・判断力・理解力・推理力・常識のおとろえが目立つ・感情や意見を適切に表現できず自分勝手が目立つ、といった状態が続いたら”ぼけ”を疑ってみる必要があります。ぼけの動機としては、環境の変化・ぼけ扱いした・長い間寝かせていた・おむつを使った・欲求不満がある・一人ぼっちにしておいた、と言ったようなことがあげられますが、原因を除けば治る可能性があります。周りの人がぼけたのではと早合点して「うちの年寄りは近頃まったくぼけちゃって」と何気なく口に出したりすると老人は自信をなくして、何でもない物忘れを真性のぼけにしてしまったりすることがあるようです。
 予防が大切です。ぼけ予防の基本は心と身体の運動です。社会とのつながりや家庭内での役割を保ち、常に頭を働かせて身の回りの小さなことにも興味を失わず、積極的に楽しく生きることです。心理的ストレスを少なくしましょう。不満・不眠・不安・孤独は、大敵です。心疾患・高血圧・動脈硬化など、慢性疾患にかからないように気を付け、病気になったら身近な〃かかりつけ医”に相談し適切な治療や、リハビリテーションを受けましょう。
(平成9年6月掲載)