逞しく老いる 中澤病院 萩 原 仁 人の脳の神経は1日当り10万ないし百万本死ぬ。脳細胞は140億以上ある。1日百万ずつ死ぬとして、1年間に3億6千万本しか死なない。しかし、1日の神経細胞死から考えると、老化現象を起すのは当然である。だが、最近は老人の力が強調されてきた。赤瀬川氏は耄碌としてきた現象に潜む未知の力について述べている。一方日本医師会では逞しく老いることを薦めている。 逞しく老いる、生きるとは一体何なのだろうか。 映画監督の新藤兼人氏は遺言状を書かなかった芸能人宇野重吉、田中絹代、溝口健二他の死に様を述べ、壮絶であったという。これは死よりも強い生きざまを訴えている。今の今を如何に懸命に生きるかという同氏の心が、未知の力の一端を物語る。逞しさということは、自分の最善を尽くして生きることである。また、それが美しさを添える。 老化して筋力が衰えると、若い時は、こんなことではなかったと苦い回想が心をよぎる。世の中も退職勧告をするが、自分自身も引退、隠居を考える。老人の心は萎縮する。そして働くこともしなくなる。 抑々我々が働くことは、今日のため、明日のためである。つまり逆時間的な行動をしている我々だ。明日のない老人には無理からぬことだが、それでも、朝食の卓で合掌し、働いてくれた人々に感謝し、今日の労働のためのエネルギーを取入れる。逞しさは、ここから生れる。高齢者はきびしい社会にもめげず、生きている。 誰でも死を恐れる。恐れが不安、恐怖となり、あるいは、一切を忘れた恍惚の人となる。 しかし、生きることを続け、自己研鑽に努めている人もいる。その選択をするのも、生きることの意味をふくむ。つまり、一段高い逞しさである。 子孫のためとか、後世のためとかに向かって、勉強し、働く人はもう一段高い階段で人生を生き抜いている人々である。 働き抜いて、完全燃焼し、あの世、月の大陸に軟着陸する、素晴らしい人生ではあるまいか。 (平成11年2月掲載) |
私達の受けている医療 レディースクリニックしげまつ 福 田 律 三 私たちは昔からいろんな形の医療を受けてきました。漢方、オランダ医学、そして現代医学による医療です。医療保険が無かった時代は大変で、病気がひどくなって、お金が多く掛かるので、田を売るか、どうするかと相談したものでした。これが国民皆保険となり安心して医療を受けられるようになりました。 これを外国に比べてみますと、イギリスでは、一人の医師が自分を選んだ人たちの健康を管理し一人あたりいくらと請け負っています。それで患者さんを、なるべく安い費用で治すようにし、患者さんもほかの医師や病院には、紹介が無いとかかれません。フランスでは治療代は現金払いです。後で申請すれば保険からお金がでます。スウェーデン、ノルウェー、デンマークは無料ですが税金が収入の約8割です。アメリカでは、2つの大きな民間保険があり、ハワイで開業している友人の医師が言うには「まず保険証をみることが一番大切だ」ということでした。入院料も1日3万円から4万円で、長くは入院することはできません。帝王切開で入院しても3日目には退院です。クリントン大統領のヒラリー夫人が国民皆保険をめざして頑張りましたが駄目でした。 わが国の医療も老齢社会に突入して大変お金がかかるようになりました。介護保険が問題になっています。でも世界一流であることには間違いないようです。 (平成8年9月掲載) |
「骨の人相」と痛み 平松整形外科医院 平 松 隆 人の顔が年齢とともに、その大きさや人相を変化させていくのと同様に、骨も様相を変えていきます。人相ならぬ「骨相」とでも言うのでしょうか。すなわち、幼児の骨は未発達で小さく、成人のものよりも折れやすくつながりやすい性質があります。一般に女子では中学生の頃に、男子では女子より数年遅く骨が成熟します。骨成熟前に激しい運動を繰り返すと様々な骨・軟骨障害(スポーツ障害)を起すことがありますので注意が必要です。中年以降においては、おもに性ホルモンの影響で、男女の骨相は明らかに異なってきます。すなわち、男子では骨強度があまり変化しないのに対し、女子では、およそ50歳以降に骨強度が低下してきます。人相が十人十色であるように、骨相も十人十色で、強そうな骨、弱そうな骨、固いけれどもろそうな骨、神経障害を引き起こしそうな骨など、個性豊かです。これらの骨相は、レントゲン写真を見れば分かります。時々、御婦人が「自分は骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療を受けているが、腰痛が治らない」と相談にいらっしゃいます。この場合、問題点は3つあります。第1に、本当に骨粗鬆症かということ、第2に、どのような治療がおこなわれたかということ、第3に、骨粗鬆症と腰痛の因果関係はどうなのかという点です。これらの問題の解決には普通、高価な医療機器は必要ではなく、神経・筋肉・腱(けん)・靭帯(じんたい)・軟骨・滑液(かつえき)膜・関節機構に関する基礎知識を持ち、そしてレントゲン写真による「骨相」に習熟した医師による診察が必要です。また、患者さん側には痛みの様子を詳しく教えていただくことが求められます。いずれにしても専門医に相談されることをおすすめします。 (平成11年5月掲載) |
「はやり目」について みね眼科医院 峰 當 典 俗に、はやり目と言っておりますが、この中には「流行性角結膜炎」、「咽頭結膜熱」や「急性出血性結膜炎」などがあります。これらは、すべてウィルスによっておこります。 はやり目の症状は、目が赤くなり、めやにや涙がでたり、ゴロゴロしたり、まぶたが腫れたりします。 この中で、流行性角結膜炎は、約一週間の潜伏期があり、症状は初めの1週間が強くその後の2週間位で治っていきます。この流行性角結膜炎では、時に角膜の点状混濁ができて目がかすむ原因になることがあります。この混濁は一度できると、1〜2年にわたって消えないことがあります。目薬は正しく点眼するようにしてください。つぎに咽頭結膜熱の症状は流行性角結膜炎より軽度ですが、全身症状が強く、発熱や咽頭炎をおこします。これは1〜2週間で治ります。3つ目のはやり目として、急性出血性結膜炎(アポロ病)があります。これは感染して1〜2日で発病します。非常に強い症状で(結膜出血が特徴的)が出現します。治るのは早く、約1週間です。 はやり目にかかったら、早めに治療を受けるようにしてください。 他の人にうつさないために、以下のようなこと注意してください。 ・目をさわったあとの手は、水道水と石けんで十分に洗うこと ・患者さん専用のティッシュペーパーを利用し、めやにや涙を拭いてビニール袋に入れて捨てること。 ・患者さんの使った茶碗・タオルなどは煮沸乾燥させること。 ・目薬を他の人に使用しないこと。(点眼瓶からの感染予防)。 ・風呂に入るときは、一番最後に入り、あとは熱湯で風呂場を流すこと。 ・会社や学校では、うつさないために休むようにすること。 (期間はウィルスの種類によって異なります)。 (平成8年7月掲載) |
肺気腫という病気について みね内科クリニック 峯 豊 診察室で「あなたは肺気腫です」といわれてもピンとこられない方が多いと思います。肺気腫の患者さんは息切れを訴えて病院を訪れます。肺気腫の程度が軽い段階では、平道を歩くときは息切れを感じないのですが、坂道や階段を登るときなどに息切れを感じます。だんだん(年単位で)ひどくなってきますと、平道を歩くときでさえも息切れを感じるようになってきて、途中休まなければ歩けないようになります。この病気は若い人ではまれで、中高年の人に多くみられます。原因は不明ですが、タバコがよくないことははっきりしています。 少しくわしく説明致します。肺は気道という空気の通路に当る部分と肺胞という酸素と二酸化炭素との交換を行う部分とからなっていて、ちょうど木を逆にした状態を想像してください。木の幹や枝が気道で、葉っばに当る部分が肺胞になります。肺気腫とは、この葉っばに当る部分の肺胞が壊れた状態です。そのために肺全体の弾力性(膨らんだ後に、縮もうとする能力)が弱くなります。正常の肺はゴム風船、肺気腫の肺は紙風船に例えられます。ゴム風船は膨らまして手を離すと、勢いよく空気を出して縮みます。しかし、紙風船では膨らみはしますが、手を離しても縮むことができないのです。このために肺気腫の人は息切れを感じるのです。 治療としては、残念ながら壊れた肺胞を元どおりにするような根本的な治療方法はありませんが、 @少しでも病気がひどくなるのを遅らせること まず禁煙すること。感染(咳や痰がひどくなったり、発熱など)のきざしがみられたら早めに医者にかかり治療すること。ストレスや過労を避ける。栄養を十分にとる。酸素の取り込みが悪い人は在宅酸素療法をうける。 A息切れなどの自覚症状を軽減することを目的として行われます。 症状を軽減するために薬を使ったり、最近ではひどい人のなかで適用があれば手術なども行われていますが、大事なことは上手な呼吸の方法です。それには、口すぼめ呼吸と腹式呼吸を修得してください。口すぼめ呼吸は口を閉じて鼻から息を吸い、息をはくときに口をすぼめて息をはく方法です。腹式呼吸は息を吸うときにおなかを膨らませ、息をはくときにおなかをへこませてする呼吸です。口すぼめ呼吸をしながら腹式呼吸を練習してください。また、息をはく時間は息を吸う時間の二倍ぐらいかけるぐらいでリラックスしてゆっくりと行ってください。 (平成10年9月掲載) |
「ライフスタイル」と「胃腸病」 牧山医院 牧 山 隆 雄 高血圧や糖尿病などを総称していう「成人病」という呼び名が、「生活習慣病」という名称に代わろうとしています。なぜ、名称が変更されるのか、その理由には、今までこうした成人病の対策を「早期発見、早期治療」の観点からすすめてきた厚生省が、これからは病気の予防に重点を置いたものに転換しようという方針をとったことによります。つまり、病気は自分の生活習慣がよくないからかかるものであり、生活習慣、すなわちライフスタイルを直せば病気にならないだろうし、また、かりになったとしても、ある程度のところでくいとめられるうえに、これにかかる費用も相当軽減できるだろうという期待があるのです。 現に、日本人の死亡三大原因である癌、心臓病、脳卒中の成因の6割がライフスタイルに起因するといわれています。高血圧や糖尿病、また動脈硬化などは「生活習慣病」の観点から、近頃雑誌やテレビにも話題としてよくとりあげられているようですが、胃腸も心の鏡、または第二の顔ともいわれるように心臓などと同じくストレスの影響を最も受けやすい臓器の一つで、ライフスタイルに大きくかかわっています。胃腸病にかからないようにするには、もともと神経質で体質的にもかかりやすい人もいますが、まず日常生活を規則正しく送ることが大切で、いうまでもありませんが、昔から「腹八分目に病なし」といわれるように暴飲暴食を慎み、タバコは百害あって一利なし、コーヒーやアルコールなどのし好品はほどほどにといったところでしょうか。 また、社会生活上からくるイライラや不満感などのストレスはその日のうちに解消し翌日に持ちこさず、精神的にも肉体的にも過労になり過ぎないよう注意しましょう。そして充分に休養と栄養をとることが肝心です。最近注目されているヘリコバクター・ピロリ菌は、消化性潰瘍や胃癌の一因になっているともおわれていますが、この胃腸に棲みつく細菌の正体も解明され、有効な治療法も確立されつつあります。 また、食生活のライフスタイルが欧米化するにつれ、胃癌が減少する傾向にあるのと対照的に大腸癌が増えつつあります。ライフスタイルの重要性を強調してまいりましたが、健康であるためには症状がなくても検診は定期的に受け、少しでも体調がおかしいと思ったら自己診断せず、気軽に受診されることをおすすめします。 (平成10年10月掲載) |
「みずいぼ」と「とびひ」 本田皮ふ科・アレルギー科 本 田 実 代表的な子どもの夏の皮ふ病であるみずいぼ(伝染性軟属腫)、とびひ(伝染性膿痂疹)について、お話ししたいと思います。 みずいぼ 原因はウィルスなので1週間、2週間単位で悪くなります。脇とかパンツの部位に小さな粟粒大のブツブツが生じて、全身にひろがることもあります。アトピー性皮ふ炎などがあると急速に拡大します。プールや風呂はもちろんのこと、ひっかくことによってもひろがっていきます。ピンセットでひとつひとつ確実につまみとるのが、最もよい治療法とされています。1週間おきにブツブツの出現をチェックするのが大切です。アトピー性皮ふ炎などの治療も行い、かゆみを抑えておくことも重要です。みずいぼのある人が最後に入浴するようにしましょう。 みずいぼに有効な外用薬が早くみつかると、つまみとるという痛い思いをしないでいいのですが。 とびひ 顔、特に鼻のまわりにできはじめ、手、足、体にひろがってきます。原因は黄色ブドウ球菌であり、抗生物質が有効です。かゆみが強くひっかくことにより細菌をばらまくことになりますので、注意が必要です。鼻くじりもしないようにしましょう。発疹のあるうちは石けんで軽く洗い、シャワーを浴びる程度にします。治療法として抗生物質の外用薬や内服薬が必要です。虫さされ、すりきず、あせも、アトピー性皮ふ炎なども細菌がつきやすいので、これも一緒に治療します。 ただれ、じゅくじゅくがひどいときは、特殊な貼り薬を使って、細菌がばらまかれないように処置します。 (平成8年8月掲載) |
閉経後骨粗鬆症 桝本産婦人科内科医院 桝 本 隆 太 近年、女性の寿命が延び高齢女性の比率が増えるにしたがい、女性ホルモン不足に伴う疾患の存在が注目されるようになってきました。その1つに、閉経後骨粗鬆症があります。 骨粗鬆症とは、骨量が相対的に減少し骨にたくさんの穴があいた状態を指します。年をとるにしたがい、ある程度は自然に誰にでも起こるものですが、骨がもろくなり骨折しやすくなる危険性は可能な限り避けたいものです。 特に女性の場合、閉経後最初の5年間くらいまでは女性ホルモンがある卵胞ホルモン(エストロゲン)の低下が骨粗鬆症の発症に大きな役割を果たしています。婦人科における初期治療としては、エストロゲン補充療法(HRT療法)が題1選択になります。 エストロゲンには、骨から骨の主成分であるカルシウムが抜きとられるのを防ぐ働きがあります。なお、以前は女性ホルモンはエストロゲンだけを投与していたのですが、それだけだと子宮内膜癌が起こるという副作用が報告され、近年はもう1つの女性ホルモンである黄体ホルモン(プロゲスチン)が併用されるようになり、子宮内膜癌の発症の危険性は全くといってよいほどなくなりました。また乳癌の発症の危険性に関しては否定できませんので、乳癌の既往や家族歴のある女性は使用しないほうがよいでしょう。 骨量は閉経を契機として急速に減少するため、骨粗鬆症は閉経後の婦人にとって重要な疾患です。しかし骨粗鬆症は骨折が起こるまでは無症状であり、ほかの臨床所見から骨粗鬆症を予測することはなかなか困難です。したがって、閉経期を迎える40歳以降の婦人は、比較的簡単にできる骨量測定を専門医で受けられ、その後も定期的にチェックされることを、おすすめします。 (平成9年2月掲載) |
胆石について 牟田クリニック 牟 田 幹 久 ”胆石 “とは肝内結石、胆嚢結石、総胆管結石の総称です。肝内結石、総胆管結石は比較的珍しく、ほとんどが手術の対象となります。 このため一般的に”胆石 “といえば胆嚢結石を指している事が多く、今回は、この胆嚢結石についてお話をします。 胆嚢結石は、四十才以上の肥えた女性に多く見られ、腹痛、発熱、黄疸が三大症状としてあげられます。腹痛は、夕食後、特に油ものを食べた後に、胃部や右上腹部の激しい痛みとして現れ、右背側部や肩に放散する事があります。また、易疲労感、上腹部の不快感、右背側部鈍痛、肩凝りなどの軽い症状や、全く無症状の場合もあります。診断は超音波検査でほぼ百パーセント近く可能です。また、治療方針を決定する上で、コンピュータ断層撮影や、胆道造影と言った検査も行われます。治療法としては、内服薬による胆石溶解療法、体外衝撃波結石破砕法と言った無痛で入院の必要の無い治療法がありますが、効果を得るためには適応が限られています。このため手術療法が主たる治療法で、最近では腹腔鏡下胆嚢摘出術が主流となり、お腹を開けることなく小さな傷で手術が可能となったため、術後の痛みもあまり無く、一週間で退院し仕事役帰が出来るようになりました。 軽い症状や、無症状の胆嚢結石は、食事などの日常生活に注意する事で、無治療でも良好な経過を取る事が多いのですが、胆嚢癌の発癌の危険因子であると言われており、超音波検査や肝機能検査を定期的に行う必要があります。これらの検査は短時間で簡便にでき、肝臓や膵臓の病気の発見にも役立ちます。 頑固な胃痛、腰痛、肩凝りと思い込んでいるあなた、近所のお医者さんで診察を受けてみてください。胆嚢結石と診断されても怖がる必要はありません。 (平成10年8月掲載) |