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2008年10月6日掲載

症状多様なドライアイ


 生物に目が初めてできたのは、太古の海の中でした。人間など哺乳(ほにゅう)類に進化しても、生物はみな海の中でつくられた目に改良を加えて利用しています。陸に上がって生活するようになった今でも目は涙で表面を潤しており、海の環境を求めているのかもしれません。

 二十世紀末に米国から導入されたドライアイという病気の考え方は、日本でもかなり浸透してきました。文字通り目の乾きが主症状ということもありますが、目の疲れや頭痛・肩こり、「目がショボショボする」「目を開けていられない」「視力が良くても何となく見えにくい」などの症状を引き起こすことが多いようです。二十世紀に考えていたときより患う人ははるかに多くなっています。

 近年の日本人の生活を考えると、エアコンの普及により乾燥した場所で過ごす時間が長くなっています。また、読書やテレビ、ビデオ、パソコンの利用に伴う目の酷使とまばたきの減少で、目はますます乾きやすくなっています。コンタクトレンズを装用する人や、たばこを吸う人が周囲にいる人はさらに状況は悪くなります。現代の生活環境がドライアイ増加の大きな原因の一つです。

 涙は単なる薄い塩水ではありません。涙は三つの層からなり、目に一番近い「ムチン」と呼ばれるスポンジ様のものが目の表面を覆い、外側の薄い油の層の間に水を入れる構造になっています。この外側の油の層が蒸発を防いでいるのです。

 イメージとしては、岩山に土が乗り、コケや草が生え、高い木が森をつくり、大地を乾燥から守っているような感じでしょうか。雨が少なすぎると、木や草も枯れて大地がむき出しになり、荒れ地になってしまいます。逆に森や植物がないと水を保つことはできません。

 つまり、ムチンが十分でないと目の表面も乾燥してしまいます。このタイプがドライアイの約半数を占めると考えられていますが、自覚症状が強いわりに目の表面の荒れなどの症状が少ないため、軽く見られて十分治療されないこともあります。涙の保湿性を正しく評価し治療すれば、不快感から解放される可能性があります。

 このほか涙の量が減少しているタイプや、きれいな油を作れないために油の層がうまくできず、涙が蒸発しやすくなるタイプがあります。

 ドライアイの治療では、まず生活環境を考え、部屋の湿度を高めにしてエアコンの風は直接当たらないようにします。たばこを避け、パソコンの使用時間が長くならないようにします。コンタクトレンズは低含水の酸素を通すタイプが適しています。

 そのうえで涙の三つの層のどこに異常があるのかを見極め、それぞれに合った点眼薬を使用します。まぶたの内側にある涙の出口「涙点」に、涙点プラグという専用のふたをすることで涙をせき止め、目にためて治療することもあります。

 海を見ていると癒されたような気分になるのは、目が生まれ故郷である海を懐かしんでいるせいかもしれません。

(長崎市滑石三丁目、中村眼科 院長  中村 充利)

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