2008年11月3日掲載
糖尿病と動脈硬化
「人は血管とともに老いる」といわれるように血管の状態はその人の健康寿命に大きくかかわってきます。その血管の老化に一番関係しているのが動脈硬化です。
動脈硬化とは、コレステロールの沈着などによって動脈の壁が部分的に厚くなり、さらに硬くなった状態をいいます。血液の流れが悪くなり、血管が完全にふさがると脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞、壊疽(えそ)の原因となる閉塞性動脈硬化症などを発症するのです。生活の質(QOL)を損なうだけでなく、最悪の場合、死に至ることもあります。
動脈硬化を早める要因を危険因子といい、代表的なものには高血圧、脂質異常症(高脂血症)、糖尿病、喫煙などがあります。その中でも糖尿病はとても重要です。
糖尿病はさまざまな合併症を引き起こします。網膜症、腎症、神経障害のいわゆる三大合併症がよく知られていますが、動脈硬化が原因で起こる病気にかかる人も多いのです。いろいろな疫学調査でも糖尿病患者はそうでない人に比べ脳梗塞や心筋梗塞などを発症するリスクが二倍から四倍と高いことが示されており、ほかに危険因子を有する場合はさらにその何倍もリスクが高くなります。
動脈硬化は知らないうちに進行し、早期発見は難しいといわれてきましたが、最近行われるようになった検査に「頸(けい)動脈エコー」と「血圧脈波検査」があります。頸動脈エコーは超音波で頸動脈の壁の厚さや血管の詰まり具合を、血圧脈波検査は血管の硬さを調べ、動脈硬化の状態を評価します。検査そのものは短時間ですみ、痛みもありません。
糖尿病患者が動脈硬化の進行を防ぐには厳しい血糖コントロールだけではなく、ほかの危険因子の是正も必要です。特に高血圧に関しては治療ガイドラインによって、糖尿病患者は収縮期(最高血圧)一三〇未満、拡張期(最低血圧)八〇未満と、血圧の目標が厳しく設定されています。
脂質についてもLDLコレステロール(悪玉コレステロール)は一デシリットル中、一二〇ミリグラム未満が目標値とされ、さらに心筋梗塞や狭心症になったことがある場合は一〇〇ミリグラム未満と設定されています。たばこは血管を収縮させるなどの弊害をもたらすので、禁煙が必要であることは言うまでもありません。
しかし、このような厳しい管理を行っても、糖尿病患者では脳梗塞や心筋梗塞の発症を三大合併症のようには減らすことができないのではないかとの報告もあります。それは糖尿病と診断される前の段階である境界型、いわゆる糖尿病予備群の時期から既に動脈硬化が進んでいることが多いからです。
ですから血糖の上がり方を調べる糖負荷試験などを行って、境界型の段階でできるだけ早期に発見し、食事や運動などの生活習慣を改善し、血糖値を正常に近づけることが必要です。そして、ほかの危険因子を有する場合はその是正に努めることが、動脈硬化の進行を防ぐためには重要です。
(長崎市田中町、前田内科クリニック 院長 前田 恭男)
>>健康コラムに戻る |