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2009年2月16日掲載

補聴器と人工内耳


 近来、医療と工学の連携は目覚ましく進歩しています。補聴器ではデジタル技術の特進によって、騒音の音量を抑えるものやハウリング(ピーピー音)を消す機能、騒音を素早くキャンセルしつつ音声だけをくっきり浮き上がらせるISP(人工知能)という最新機能を取り入れたものまで出てきました。

 形状も耳の穴(外耳道)深部に入れるCIC型や、耳の後ろに二センチ隠れる程度の目立たないものから、色彩を楽しむカラータイプ、離れた音声やテレビ音声を聞き取るFMタイプなど、どれを選んでいいか悩むほど選択肢が増えてきています。

 補聴器が二〇〇五年から販売業の届け出が必要な管理医療機器となったことにより、日本耳鼻咽喉(いんこう)科学会は〇六年から「補聴器相談医」制度を定め、高度な講習を受けた耳鼻咽喉科医を認定しています。通信販売や訪問出張販売などで高価な補聴器が両耳セット販売されながら、あまり使用していないという問題が全国で起きていたからです。

 今では相談医と、良心的な専門技術職の「認定補聴器技能者」がタイアップし、個人個人に適合するよう補聴器の調整を行っています。県内では耳鼻咽喉科の医師の多くが相談医に認定されており、長崎市医師会のホームページから検索もできます。

 補聴器でも聞き取りが難しい人のために人工内耳があります。内耳の蝸牛(かぎゅう)と呼ばれるうずまき管に電極を手術で入れ、聴覚を取り戻す医療機器です。この分野も近来、目覚ましい発展を遂げました。防水型や電気刺激のより高いもの、入れたままでもMRI撮影ができるものが登場しています。

 長崎大での人工内耳症例は二百人を超えています。そのうち小児は約60%の百二十人で、小児の割合では全国の先端を走っています。長崎大と長崎ろう学校や人工内耳リハビリ医療機関の連携により、先天性難聴であっても人工内耳で音声言語を母語として獲得し、多くの子どもたちが健聴児と一緒に教育を受けられるようになりました。

 本県にはヘレンケラーや、発明家でろう教育教師でもあったグラハムベルが訪問した歴史があり、教育と医療が連携してきた伝統があります。長崎大は、シーボルトの母校であるドイツのビュルツブルグ大との連携が良好で、毎年、国際的なドクターと「耳」に関する交流をしています。

 「耳の日」の三月三日はグラハムベルの誕生日であり、人工内耳手術を支援していただいているビュルツブルグ大のヤン・ヘルムス名誉教授の誕生日でもあります。

 日本耳鼻咽喉科学会長崎県地方部会と県耳鼻咽喉科医会は三月一日午後一時から長崎市築町のメルカつきまちで、「耳の日公開講座」を開きます。人工内耳体験談などの講演、聴導犬の紹介、相談会を予定しています。問い合わせは長崎大耳鼻咽喉科(電095・819・7349)。参加無料ですので、気軽にお立ち寄りください。

(長崎市若草町、神田耳鼻咽喉科entクリニック 院長  長崎大医学部 非常勤講師  神田 幸彦)

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