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2009年3月2日掲載

認知症


 年をとっても「人間らしく最後まで自分らしくありたい」と誰しも望むことですが、これを妨げているのが認知症です。超高齢化社会を迎える今、老後の最大の不安の一つとなっています。

 認知症とは、いったん身に付けた知的な能力が落ちて、自立した生活が難しくなった状態です。国内には現在百六十九万人おり、六十五歳以上では二十人に一人、八十歳以上では五人に一人の割合で症状があるといわれます。今後二十年間でさらに増加すると予想されており、誰にでも起こりうる「脳の病気」です。恥ずかしいことではなく、隠す必要もありません。病気なのですから、できるだけ早く受診するのが一番です。

 認知症を引き起こす病気のうち、最も多いのは脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」で、アルツハイマー病、レビー小体病などがあります。続いて多いのが、脳の血管の病気のために神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その部分の神経細胞が壊れてしまう、脳血管性認知症があります。

 認知症の症状としては、脳の細胞が壊れて起こる「記憶障害」、時間や場所が分からなくなる「見当識障害」、判断力、理解力の低下などがあります。そして、これらの症状のために周囲で起こっている現実を正しく理解できなくなり、そこに性格、環境、人間関係などさまざまな要因が絡み合って、幻覚、妄想、徘徊(はいかい)、興奮、暴力など行動上の問題や精神病に近い症状が見られたりします。

 現在、認知症の人の約半数が在宅で生活しています。認知症の人がこれらの症状から不安に陥り、その結果、周りの人との関係が損なわれ、家族が疲れ切って共倒れしてしまうことも少なくありません。

 しかし、誰もが認知症についての正しい知識を持ち、認知症の人や家族を支える手だてを知っていれば、地域の中でその人らしい穏やかな暮らしを続けていくことができます。

 厚生労働省は「認知症サポーター百万人キャラバン」として、認知症の人と家族を見守る「認知症サポーター」を百万人養成し、安心して暮らせる、まちづくりを進めようとしています。各地で養成講座が開かれており、全国で約七十二万三千人、県内では二千九百三十五人(昨年十二月十日現在、いずれも講師役「キャラバン・メイト」を含む)のサポーターが誕生しています。
 一方、そうした取り組みを着実にするには、かかりつけ医が参加し地域包括支援センターと連携しながら認知症の人の支援体制づくりが欠かせません。かかりつけ医には、専門医療を提供する医師との密接な連携により、認知症の早期発見、適切な診断、治療などが求められています。

 早期の治療により、治る認知症もあります。進行を遅らせたり、精神症状、行動上の問題を、より軽い状態にとどめることを可能にします。

 たとえ認知症になっても、安心して生活できる社会を早期につくるために、長崎市医師会は認知症サポーターの養成、かかりつけ医の認知症対応能力の向上など医療面での支援体制をつくることに力を入れています。

(長崎市新地町、山の手クリニック院長 院長  長崎市医師会 理事  中谷 晃)

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