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2009年5月4日掲載

メタボリック症候群と消化器疾患


 「メタボ」という言葉は既に多くの人が知っている言葉だと思います。内臓脂肪型肥満の人に脂質や糖の異常、高血圧を合併すると動脈硬化が進み、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞などを起こしやすくなるという病態です。しかし、実は心血管疾患以外に、消化器疾患とも関係があります。主な疾患を紹介しておきたと思います。

 肝臓の病気としては、肝臓の細胞の中に中性脂肪が過剰にたまった「脂肪肝」があります。中でも、最近は「非アルコール性脂肪性肝疾患」が増えており、メタボリック症候群の10−20%程度が合併しているといわれています。

 この病気は、普段の飲酒が適正飲酒量(日本酒換算一日一合以下)で、ウイルスや自己免疫などが関与していない脂肪性肝疾患の総称です。これはさらに炎症や線維化(硬さ)のない単純性脂肪肝と、炎症や線維化の進んだ非アルコール性脂肪性肝炎(NASH、ナッシュと呼びます)に分かれます。

 単純性脂肪肝の多くは良性に経過しますが、まれにNASHとなり、肝硬変を経て肝がんに至ることが知られるようになりました。NASHの診断には、組織検査が必要ですが、肝がんを早期に見つけるためには超音波検査やCT(コンピューター断層撮影)検査が有用です。健診などで肝機能異常を指摘された場合には画像検査を受けられることをお勧めします。

 消化管の病気としては、胃食道逆流症があります。これは「胃内容物の逆流によって不快な症状あるいは合併症を起こした状態」と定義されています。よく知られているのは「胸焼け」という症状で代表される逆流性食道炎です。

 食道と胃の境界付近には下部食道括約筋があり、これが弁の働きをして、胃の内容物が食道内に逆流しないような仕組みになっています。すなわち、食事摂取時には一時的にこの筋肉が緩んで食べ物が胃の中に入りますが、それ以外は一定の強さで収縮し、胃の内容物が食道内に逆流するのを防いでいるのです。

 逆流性食道炎は、肥満でなくても猫背や食道裂孔(れっこう)ヘルニア(食道と胃の境界付近の筋肉が緩み、胃が上につり上がったような状態)でも起こり得ます。しかし、肥満の人では胃が周囲の内臓脂肪によって外から圧迫されるため、胃の内圧が上昇し、その結果として一時的に食道括約筋が緩む回数が増えるために起こりやすいといわれています。

 また、肥満の原因となる高脂肪食はコレシストキニンという消化管ホルモンの分泌を促しますが、このホルモンは下部食道括約筋の圧力を低下させるといわれており、胃食道逆流症の一因となっています。この病気の診断には内視鏡検査が有用で、治療には胃酸の分泌を抑える薬が有効です。

 さらに肥満は食道腺がんや大腸がん、膵(すい)がんの発症リスクを増やすとも報告されています。肥満の人はダイエットが必要ですが、急激な変化は健康を損なう可能性もあります。一年間で5−10%の体重減少を目指しましょう。
(長崎市琴海形上町、飛田内科クリニック院長)

(長崎市琴海形上町、飛田内科クリニック 院長  飛田 大作)

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