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2009年8月3日掲載

夏に多い耳の病気

 夏特有の環境が「耳」に影響して起こる問題について解説します。
  (1)耳の炎症
  耳たぶや外耳道の皮膚は汗や水泳の影響でかゆみが起こりやすくなります。さらに風呂上がりや水泳後の綿棒による清掃、耳あか取りの刺激も加わり、皮膚の炎症(外耳道炎)が起こります。主な症状は痛みで、時に軽い難聴や耳漏を伴います。たかが耳のおできですが、夜も眠れないほどの痛みに悩まされることもあります。

 外耳道の奥の鼓膜とその裏の空洞の炎症が中耳炎です。鼻と耳をつなぐ管(耳管)から病原菌が侵入して発病します。水泳の息継ぎの失敗、鼻のかみすぎで起こります。難聴や耳が詰まったような感じが強く、病原菌によっては抗生物質だけでは治りません。鼓膜穿孔(せんこう=鼓膜に穴ができた状態)、中耳炎の慢性化、内耳への影響を予防するため、鼓膜を切開してうみを排せつする処置が必要なこともあります。

 保育園など集団保育を受けている乳幼児が中耳炎を繰り返す例が増えています。3歳までは中耳の構造が未熟で、病原菌に対する抵抗力も弱くて炎症を起こしやすい上、人が集まる場ではいろいろな病原菌に接触する機会が多くなります。抗生物質が効きにくい菌も増えています。中耳炎が起こりやすく、治りにくい時代といえます。

 予防法としては▽風邪の予防▽鼻のかみ方の習得や鼻の病気の治療で、耳管の機能を改善する▽授乳時は座って赤ちゃんを抱き、垂直に近い姿勢で飲ませる▽風邪気味や鼻が悪いときは水泳を控える−などがあります。重症の場合は数年間、鼓膜に換気用のチューブを装着することもあるので、軽く見ないようにしましょう。
  (2)耳に虫が入る
  「飛んで火にいる夏の虫」が耳に入ることがあります。ブヨ、ガ、アリなど小さなものが多いですが、中にはゴキブリ、ムカデなど「ぞっ」とするのもあります。外耳道は虫にとってはUターンのできない一方通行なので、鼓膜の手前で息絶えるまで大暴れをし、鼓膜や外耳道を傷つけることもあります。人にも虫にも不幸な事故です。

 オリーブオイルなど皮膚に刺激の少ない液体を5、6滴垂らして外耳道を満たし、虫が窒息するのを待ちます。摘出は翌朝まで待って支障ありません。ガサガサと動いているときに引きずり出すのは危険です。耳鼻咽喉科ではまず麻酔薬スプレーを虫に吹き付けて数秒待ち、手術用顕微鏡で動きが停止したのを確認してから特殊な鉗子(かんし)で取り出します。
  (3)花火、爆竹による難聴
  お盆の花火・爆竹は長崎の風物詩ですが、精霊流しに参加し爆竹や花火で難聴になったり、鼓膜の火傷を負ったりする人がいます。

 鼓膜の場合は手術で穿孔を修復すれば聴力の回復が期待できますが、強い音による難聴は内耳の音を感じる細胞が障害され回復不能な場合もあります。いずれも耳栓で予防可能です。精霊流しの責任者は、参加する全員が耳栓を着用していることを確認してください。


(長崎市中園町、江上耳鼻咽喉科 院長  江上 徹也)

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