>>健康コラムに戻る

2009年8月18日掲載

妊娠と薬について

 妊娠中に薬を服用することが胎児にどう影響するか質問されることがあります。「妊娠していると気付かずに薬を飲んでしまったが、赤ちゃんは大丈夫ですか」「妊娠中ですが、かぜ薬、頭痛薬、胃薬、花粉症薬などを服用していいですか」といった質問です。

 多くは胎児に奇形が起こらないかを心配されています。結論から言いますと、抗がん剤や抗てんかん薬など一部を除き、ほとんどの市販薬や短期間服用する薬には心配するような危険性はありません。

 妊娠中に薬を服用していなくても、自然に胎児に奇形が発生する頻度は2〜3%といわれています。先天異常の原因の多くは遺伝的要因と環境要因の兼ね合いと考えられています。環境要因の具体的な例としては、妊娠時の感染症や持病、栄養不足、アルコール、たばこ、環境汚染、そして薬が挙げられます。

 薬が原因の奇形は、すべての奇形の約1%と推測されています。ですから、100人に2人の割合で奇形が発生するなら、薬が原因の奇形は1万人に2人になる計算です。実際に薬の影響を受けて奇形ができる頻度は非常に少ないと予想できます。大部分の薬は、奇形の自然発生率を高めることはないといえます。

 言い換えれば、奇形の発生率を5倍にも10倍にも高めるような危険な薬はごく一部の特殊な薬だけということです。しかし、その特殊な薬を服用した時期が重要になることがあります。

 受精後2週間(妊娠3週末)の間に薬のダメージを受けた場合は着床できなかったり、流産を起こしたりします。そうならなければ、少々のダメージを受けても完全に修復され、奇形は起こらず、胎児は発育すると考えられています。

 最も問題になるのはこの後、胎児の臓器ができていく時期で、大体3カ月(妊娠11週)までは催奇形性の危険性があります。妊娠4カ月(妊娠12週)になるとその心配は少なくなりますが、その後は奇形とは異なる胎児の発育や機能に悪い影響を及ぼす作用(胎児毒性といいます)に問題が移ります。

 ただ、催奇形性のある薬は使用前に妊娠テストを行ったり、あらかじめ使用期間中に妊娠しないように申し付けられるものです。

 ぜんそくや糖尿病、てんかん、甲状腺の病気といった慢性疾患の治療中に妊娠を希望される場合は、事前に主治医とよく相談しましょう。妊娠してから慌てないですみますし、より影響の少ない薬に変更しておくこともできます。そもそも妊娠中も薬をやめず、適切な薬をきちんと服用したほうが妊娠子宮の環境をよくすることが多いものです。医師の管理の下、計画的に妊娠・出産されれば安心です。

 ちなみに帝王切開や無痛分娩(ぶんべん)の際には麻酔薬を用います。これらの麻酔では一般的に胎児にほとんど影響がないといわれる局所麻酔薬を用いた方法がとられています。ご不明な点や心配なことは、かかりつけの先生にご相談ください。


(長崎市古川町、下村産婦人科麻酔科  下村 修)

>>健康コラムに戻る