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2009年12月7日掲載

これからの子どものワクチン

 新型インフルエンザが流行しています。今年は私たち医療者も、患者さんもインフルエンザとそのワクチンに振り回されるシーズンになってしまいました。多くの患者さんがインフルエンザの予防接種を希望されていますが、大切なワクチンはほかにもたくさんあります。今回は最近接種が可能となった、もしくは近く可能になる二つのワクチンについてお話しします。

 細菌性髄膜炎という病気があります。細菌が脳を直接、間接に侵す病気です。適切な治療をしても死亡、助かっても後遺症が残る可能性が30%くらいあります。後遺症を残さず治癒したと思われた子どもたちにも軽度の障害が比較的多く見つかることが分かってきました。その主な原因が「ヒブ」と呼ばれる細菌と肺炎球菌で、それぞれ全体の60%、20%程度を占めます。

 ヒブは「ヘモフィルスインフルエンザ菌b型(Hib)」の略です。インフルエンザの流行時期に見つかったため、その名前が付いていますが、インフルエンザウイルスとは全く別の「細菌」です。間違いのないようヒブと呼ばれるわけです。細菌の周りにある莢膜(きょうまく、これがあると体の中で白血球に食べられにくくなります)によりa〜fの六つの型に分類され、b型が最大の原因菌となります。

 ヒブによる重症感染症には髄膜炎のほか、喉頭蓋炎(こうとうがいえん)、菌血症(細菌が血液中に入りこんだ状態)などがあります。日本では毎年、数百人の子どもがヒブに感染していました。

 ヒブワクチンは20年前から使われるようになり、アメリカではヒブ感染症が導入前に比べて99%減少しています。昨年から日本でも接種できるようになりましたが、日本の検定基準がとても厳しいため生産量が非常に少なく、現在ほとんどの医療機関で数カ月待ちの状態です。一日も早い定期接種化が望まれます。

 一方、肺炎球菌は約90種類あり、これも莢膜を持っています。七つの血清型が重症度の高い髄膜炎や菌血症の8割を占めます。抗生物質に抵抗力(耐性)を持っているものも多く見られます。

 5歳未満の子どもでも肺炎球菌による髄膜炎は年間約200例、菌血症は約1万8千例、肺炎は約1万2千例発生しています。中耳炎の重症例では2番目に多い原因となっています。

 小児用の肺炎球菌ワクチン「プレベナール」が来年から使用できる予定です。これまで「ニューモバックス」というワクチンがありましたが、主に高齢者用で子どもには効果がありませんでした。この小児用ワクチンは髄膜炎や肺炎などを94%減少できるとされています。子どもの感染が防げることで、肺炎など高齢者の重症感染症が減少したとのデータもあります。

 日本の予防接種制度は意外にも諸外国に比べて大きく遅れています。この二つのワクチンも任意接種のため、全額自己負担になります。費用の面も含め、多くのワクチンが定期接種となってほしいものです。

(西彼時津町浦郷、たなか小児科クリニック 院長  田中 摂)

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