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2009年12月21日掲載

鼠径ヘルニア

 皆さんは立ったときやおなかに力を入れたときに、太ももの付け根付近=鼠径部(そけいぶ)=が膨らんでいませんか。もしそうなら「鼠径ヘルニア」かもしれません。

 鼠径ヘルニアは本来おなかの中に収まっている小腸などの臓器が、腹膜に包まれて鼠径部の皮膚の下に出てくる病気です。俗に「脱腸」と呼ばれるもので、大人にも子どもにもよく見られ、年間10万人以上が手術を受けています。

 子どものヘルニアは生まれつき腹膜の袋ができており、そこに臓器が脱出して発症します。生まれる前、男性の赤ちゃんの睾丸(こうがん)は鼠径管を通っておなかの中から陰のうの中に下りてきますが、その時一緒に腹膜も付いて下りてきます。ほとんどの人は生まれた後に消失しますが、腹膜が袋状に残ってしまうと臓器が脱出してくるようになるわけです。

 大人のヘルニアはこの鼠径管の周囲の筋肉や靱帯(じんたい)が弱くなってすき間ができ、そこから腹膜に包まれて臓器が下りてきます。鼠径管の内側は、男性では精管と血管が、女性では子宮を支える靱帯が見られます。男性の方が鼠径管が広いため、発症頻度が高いといわれています。

 鼠径管の入り口付近で飛び出してきたものを「外鼠径ヘルニア」、出口付近で出たものを「内鼠径ヘルニア」といいます。特殊なタイプで、鼠径管の背側を通って太ももの付け根の血管わきに脱出するものを「大腿(だいたい)ヘルニア」と呼びます。これは女性に多くみられるようです。

 鼠径ヘルニアの症状は軽い痛みか、無症状のこともあります。足の付け根や陰のう内の膨らみ=腫瘤(しゅりゅう)=も痛みがないと気付かないこともあります。痛みも脱出部にあるとは限らず、単なる腹痛と思って受診する人もいます。下着を脱いで鼠径部や陰のうの腫瘤に初めて気付くこともあるようです。

 ここで注意が必要なのは、脱出した臓器がおなかに戻らなくなったときです。最初のころは指で押さえれば引っ込んでいた腫瘤が次第に硬くなったり、引っ込まなくなったりします。嵌頓(かんとん)と呼ばれる状態で、大急ぎで臓器を戻さないと、血液の流れが悪くなり、脱出した臓器が壊死(えし)してしまいます。そうなると緊急手術で切除せざるを得ず、命にかかわる事態になってしまいます。すぐに近くの病院を受診し、処置してもらいましょう。

 治療法は手術が唯一の方法です。子どもの場合は腹膜の袋を切除し、脱出する穴をふさいだら完了です。大人の場合は腹膜の袋の切除だけでなく、弱くなった筋肉や靱帯の補強が必要になります。補強にはポリプロピレンのメッシュシートを用いることが多いようです。入院期間は5〜10日ほどで、メッシュシートなど人工物の違和感などがなければ早期の社会復帰が可能です。

 腹腔(ふっくう)鏡による手術も行われていますので、主治医と相談して早めに手術することをお勧めします。

(長崎市西海町、西谷クリニック 院長  西谷 正嘉)

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