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2010年2月1日掲載

新型インフルエンザ感染と予防対策

 2009年春にメキシコ共和国から始まったブタ由来新型インフルエンザは、世界保健機関(WHO)の報告では、09年12月20日までに208の国と地域に感染が拡大し、最低でも1万1216人の死亡者を認める全世界的流行(パンデミック)となっております。

 国立感染症研究所の報告では、日本でも09年7月6日から12月20日までに約1653万人が感染したとみられています。現在、若年層での流行はやや縮小傾向にありますが、今後はほかの世代にも拡大、さらなる流行が懸念されております。

 ヒトのインフルエンザウイルスには弱毒株(呼吸器系に感染するタイプ)とか強毒株(全身に感染が拡大するタイプ)という区別はなく、今回の新型インフルエンザも決して軽度なものではありません。過去に人類が経験した新型インフルエンザである「アジアかぜ」や「香港かぜ」の出現当時と、同じようなレベルの重症度であると考えなければなりません。

 昨年8月以降、わが国でも死亡例が出始めており、基礎疾患を有する70歳以上の高齢者と5歳未満の小児で目立つようです。従来の季節性インフルエンザが高齢者を中心に0・1%程度の死亡率であるのに対し、新型インフルエンザは健康な若年者が中心でありながら、1%を超える致死率が報告されている国もあります。

 被害の大きい国々を見ると、患者の多くが1発症から1週間前後たって初めて医療機関を受診しています。重症例や死亡例の多くが発症後4、5日目に呼吸不全を呈しており、ウイルス性肺炎の重症化だけでなく、細菌性肺炎の重症化も見られます。診断と治療の遅れが被害を大きくしていると考えられます。

 一方、わが国の場合、患者のほとんどが発症後2、3日以内に医療機関を受診し、ほぼ全例に抗インフルエンザ薬の投与が行われています。早期受診、早期診断、早期治療が重症化を未然に防いでいると考えられます。

 インフルエンザウイルスの侵入経路は、口や鼻、目などの粘膜です。感染者のせき、くしゃみ、鼻汁などの飛沫(ひまつ)や、手指で直接触ってウイルスを媒介することで、感染が起こると考えられます。そこで感染予防には手洗いの励行とともに、手で顔を触らないことが重要です。うがいやマスクにもそれなりの防護効果は期待できますが、手洗い前にうがいをしたり、マスクを着け外したりすると、顔に手が触れますので逆効果になりかねません。

 また、免疫力が低下すると感染しやすくなりますので、十分な栄養摂取、睡眠・休息が不可欠です。

 最後に予防接種の効果は、インフルエンザの感染を完全に防ぐものではなく、感染後の重症化を防ぐものです。基礎疾患を持つ高齢者や小児では、優先的に接種が行われているところです。また、インフルエンザが重症化した場合に起こる細菌性肺炎の予防のためには、肺炎球菌ワクチンの接種も積極的に進める必要があります。

(長崎市琴海村松町、すぎやま内科クリニック 医師  杉山 秀徳)

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