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2010年3月1日掲載

尖圭コンジローマ

 尖圭(せんけい)コンジローマは、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の感染によってイボができる病気です。多くは外性器および肛門の周囲にイボが発生しますが、発生部位によってイボの形態が大きく異なり、病態は多様です。そのほとんどは性行為により伝播(でんぱ)する性感染症です。

 HPVは小型のDNAウイルスであり、それを構成するヌクレオチドの塩基配列により約100種類の亜型に分類されます。尖圭コンジローマなどの良性乳頭腫から分離されるHPVを低リスクHPVといいます。一方、子宮頸(けい)がん、肛門がん、膣がん、陰茎がんから分離されるHPVを高リスクHPVといいます。

 高リスクHPV感染が長期に及んだ場合、平均10年以上の期間を経て、このHPVが支配する腫瘍(しゅよう)化タンパク「E7」が発現し、細胞周期制御タンパクを阻害し、細胞のDNA合成系を活性化させます。さらに「E6」の発現はがん抑制遺伝子を阻害します。これにより感染細胞の異常な増殖が起こり、前腫瘍病変から、がん病変に進行すると考えられています。

 この悪性型HPVの感染流行が若い人に広がりを見せており、その結果として子宮頸がんの発生がかなり若年化しています。そのため、子宮頸がんの検診は今までの30歳からではなく、20代から始めるべきであると考えられています。

 尖圭コンジローマの治療方法は従来、外科的切除、電気焼灼(しょうしゃく)、レーザー蒸散、凍結療法など外科的療法が中心で、肉眼的病変の除去にとどまっていました。そのため侵襲性とともに再発率の高さが問題となっていました。

 新しい治療薬「イミキモド」は、微量合成抗ウイルス分子を認識する細胞の受容体TLR−7、あるいはTLR−8に作用し、インターフェロン−αやインターロイキン−12などのサイトカイン(細胞間情報伝達物質)の産生を促進、ウイルスの増殖を抑制します。また、これらサイトカインがT細胞を活性化し、そこから産生されるインターフェロン−γを介して細胞性免疫を賦活することにより、抗ウイルス作用を及ぼします。

 尖圭コンジローマに対しては、1997年に米国食品医薬品局(FDA)から治療薬に認可され、世界中で使用されています。イミキモドを5%含有するクリームは麻酔を必要とせず、米国CDC(疾病予防管理センター)のガイドラインでは患者自身で使用できる治療薬として推奨されています。日本でも有効性と安全性が確認されて2007年12月から販売され、日本性感染症学会のガイドラインでは凍結療法とともに治療の第一選択となっています。

 性感染症は細菌感染症からウイルス感染症の時代に入っています。エイズウイルス(HIV)の感染リスクを高めているのも、尖圭コンジローマと性器ヘルペスです。患者の受診機会が増えることにより、将来的には性感染症全体の患者を減らせる展望も見えてきました。

(長崎市田中町、東長崎皮ふ科泌尿器科医院 院長  居原 健)

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