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2010年3月15日掲載

がんと共に生きる

 がんやそれに伴う痛みは、自分には関係ない話だと思われるかもしれません。けれども、日本人の2人に1人はがんにかかり、日本人の3人に1人はがんで亡くなっています。この事実から、今後がんに対してどのように向き合って生きていくかを、自分自身の問題としてとらえることが大事だと思います。

 国の政策として2008年4月、がん対策基本法が施行され、同年7月に策定されたがん対策基本計画では「すべてのがん患者・家族の苦痛の軽減・療養生活の質の向上」がうたわれています。しかし、どう対応すれば良いかという具体的方法は示されていません。苦痛を軽減することを意味する「緩和ケア」という言葉でさえ、いまだ一般的に知られているとはいえません。
 長崎市医師会は07年から、厚労省の「緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM)」に参加しています。多くの人に「緩和ケア」の考えを理解していただき、さらにがんの痛みに苦しんでいる患者さん、家族の苦痛を少しでも取り除くための事業に取り組んでいます。

 「緩和ケア」と聞くと難しく感じられると思いますが、人が感じる「痛み」をどうにかして和らげようということです。

 「がんの痛み」という言葉を聞くと、がん末期で体の痛みに苦しんでいる患者さんの姿を連想されるかもしれませんが、「痛み」はそれだけではありません。

 体の痛みのほかに、不安、いらだちなどの「精神的な痛み」、仕事や家庭の問題などから来る「社会的な痛み」、生きる意味への疑問や死への恐怖から来る「霊的な痛み」、それらすべてを含んだ全人的な苦痛があるのです。

 そして、「痛み」を感じるのは患者本人だけでなく、家族も同じように苦しんでいます。

 これらの問題をすぐに解決するのは難しいことですが、少しでも地域全体で支えることができるようにさまざまな試みが行われています。

 市民の方に知っていただきたいのは、「がんの痛み」にはいろいろな「痛み」があることと、医療用麻薬などを適切に使用することで副作用を恐れず比較的良好に「痛み」をコントロールできるということです。

 長崎市医師会はこれまで「がんの痛み」「医療用麻薬」「在宅医療」などについて市民向けの講演を行ってきました。医師に対しても、かかりつけ医が「緩和ケア」の相談に応じられるように医療用麻薬の使用法など「痛みへの対応」の研修会を繰り返し行い、多くの開業医の医師に参加してもらっています。

 今月27日午後2時から長崎市茂里町の長崎ブリックホールで、「がんと共に生きる」をテーマに市民健康講座を予定しています。講師は長崎生まれのジャーナリスト立花隆さんです。立花さんは07年にぼうこうがんの手術を受けた経験を通して「死ぬまでちゃんと生きることこそ、がんを克服すること」と述べられています。話を伺い、がんとの向き合い方を探りたいと思います。

(長崎市茂木町、藤井外科医院 院長  藤井 卓)

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