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2010年4月19日掲載

硝子体

 硝子体。「がらすたい」とは読まずに、「しょうしたい」と読みます。眼球内の大部分を占める透明なゲル状の組織です。

 よく水晶体と混同されることがありますが、水晶体は虹彩(茶色目)のすぐ後ろに存在し、硝子体は水晶体のさらに後方にあります。水晶体はレンズの役割をしており、白内障というのはこの水晶体が混濁することをいいます。

 眼球の構造をカメラに例えると、角膜(黒目)と水晶体はレンズ、目の奥にある網膜はフィルムです。そして硝子体はフィルムの前に存在する空間だと思ってください。硝子体は90%以上が水でできており、ほかにコラーゲン線維や少量の細胞成分を含んでいます。眼球内を透明に保ち、網膜を保護する役割を担っています。

 硝子体は加齢や病気によって性状が大きく変化します。健常な人であっても加齢により硝子体の一部は線維化し、一部は液化します。線維化した硝子体は容積が減少し、やがて網膜から分離します。このような状態を後部硝子体剥離(はくり)といいます。

 この後部硝子体剥離の際、軽度の混濁を生じることがあり、それが網膜に映ることによって「飛蚊(ひぶん)症」という症状を生じます。あたかも虫が目の前を飛んでいるように感じられる症状です。輪やベール状のものが見えることもあり、すべて「飛蚊症」と総称しています。後部硝子体剥離によって生じた「飛蚊症」は時間とともに軽くなっていきますが、なくなることはありません。

 後部硝子体剥離だけでは治療の適応にはなりませんが、後部硝子体剥離が起こる前後にはさまざまな病気を起こすことがあります。代表的な疾患が網膜剥離です。

 硝子体は部分的に強く網膜と接着しています。後部硝子体剥離が起こった際に網膜を強く牽引(けんいん)したため、網膜に穴が開き(網膜裂孔)、網膜がはがれることがあります。網膜剥離は放置すると失明する疾患なので、早急に手術が必要です。

 硝子体の牽引が網膜の中心である黄斑に起こると黄斑円孔などの病気を起こします。症状としては視力が低下したり、ものがゆがんで見えたりします。

 線維化した硝子体が黄斑に付着する網膜前膜という病気もあります。無症状のこともありますが、症状があれば治療の適応となります。

 このような硝子体に関連した疾患は、主に中高年の人に発症します。しかし、近視が強い人は若年者でも発症することがあり、注意が必要です。そのほか、糖尿病網膜症による硝子体出血や、炎症性疾患であるぶどう膜炎でも硝子体が混濁します。

 近年、光干渉断層計という検査器機が開発され、硝子体と網膜の関係や網膜の内部構造が詳細に観察できるようになりました。これまで不明であった病態の解明が進んでいます。また、硝子体が関与して起こる多くの病気は、硝子体手術により治療が可能となっています。多くの病気は早期発見・早期治療が有効です。飛蚊症のある人や近視の強い人は、眼科を受診することをお勧めします。

 なお、硝子体や網膜の観察には、瞳孔を広げる目薬を付け、目の奥の状態を詳しく調べる「散瞳検査」が必要ですので、自家用車での来院は控えたほうが良いでしょう。


(長崎市本原町、宮村眼科 院長  宮村 紀毅)

 

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