2010年5月17日掲載
進む内視鏡手術
外科におけるがんの手術では、内視鏡と呼ばれるカメラを用いて行う方法が主流となっています。この内視鏡のことを、胸の手術では胸腔鏡(きょうくうきょう)、お腹の手術では腹腔鏡(ふくくうきょう)と呼びます。
日本人の死因の第1位を占める肺がんですが、その手術方法もこの10年間で大きく変わりました。現在、手術の適応となる患者の約半数にこの胸腔鏡手術が取り入れられています。
具体的に手順を説明すると、患者には肺がんの手術をする側の胸を上にして、横向きに寝てもらいます。そして「ポート」と呼ばれる直径1センチほどの細く短い筒状のものを、手術する側の肋骨(ろっこつ)と肋骨の間から3、4カ所に胸に差し込み固定します。これらとは別に、切除した肺を最後に取り出すための小さな切開もつくっておきます。
これらの穴から胸腔鏡やその他の手術器具を患者の体内に入れて、病巣であるがんの部分を含めて肺を切除します。それと同時に肺がんが転移しそうな場所のリンパ節も切除しておきます。
これまでの手術であれば、これらの操作を行うためには胸を大きく開かなければなりませんでした。そうすると呼吸に重要な筋肉や肋間神経に対するダメージが避けられず、患者は呼吸の回復の遅れや痛みなどのために、元気になるまで長い時間がかかっていたわけです。
これに対して、胸腔鏡手術ではそれらのダメージはほとんどないか、あっても大変軽いものになることが分かっています。特に手術後の痛みの最大の原因である肋間神経に与える影響については、長崎大の研究グループにより、胸腔鏡手術が優れていることが証明されています。
おかげで患者の回復度は以前の手術法と比べると格段に良くなりました。多くの患者が手術後1、2週間で日常生活に全く問題ない状態まで回復しています。特に手術前からいろいろな合併症を持っている人や高齢の人には、体への影響の少ない胸腔鏡手術による恩恵が大きいと思われます。
内視鏡手術では、これまで外科医が直接肉眼で見ていた体の中をテレビモニターの大画面を通してより近く、大きく見ることができます。肉眼では見ることが難しい角度や深い場所の手術が容易にできるという利点があります。しかし、その技術の習得にはこれまでの手術とは別に、ある一定の訓練が必要になります。
長崎大学病院では、若い外科医のためにブタの臓器を用いて実際の手術に近い環境で内視鏡トレーニングを定期的に行い、内視鏡技術の早期習得に力を入れています。さらに今春から、これまでの内視鏡装置よりも高精細な画像が得られるハイビジョンシステムを手術室に導入しました。これにより今まで以上に正確で安全な内視鏡手術が可能になりました。
(長崎大大学院医歯薬学総合研究科腫瘍外科 教授 永安 武)
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