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2010年7月5日掲載

小児用の肺炎球菌ワクチン

 肺炎球菌は病原性が強く、特に免疫力の弱い乳幼児の場合、肺炎や中耳炎、進行すると菌血症、重症肺炎、さらに重篤になると細菌性髄膜炎を引き起こします。肺炎球菌による髄膜炎は年間約200人の子どもがかかり、そのうち約5%が死亡、約25%に重い障害が残っています。

 肺炎球菌は生後2〜3カ月ごろ、鼻やのどに侵入してきますが、母親から移行した抗体によって生後数カ月は守ってくれます。それ以降は抗体が消失し無防備の状態になるため、予防が重要になります。

 一方、ペニシリンなどの抗生物質が効きにくい耐性肺炎球菌が徐々に増加して難治化、重症化が大きな問題になり、肺炎球菌ワクチンの開発が求められてきました。主に高齢者を対象とした肺炎球菌ワクチンは1988年、日本にも導入されましたが、免疫系の未熟な乳幼児では抗体を作る効果がなく、小児用ワクチンの早期開発が望まれてきました。

 その後、技術革新により、特殊なタンパク質を結合して乳幼児にも十分な抗体ができる小児用のワクチンが開発されました。欧米では2000年から導入され、現在101カ国で承認されています。米国など45カ国では定期予防接種にも採用されています。日本では10年2月24日から発売されました。

 臨床試験で、ワクチンはすべての肺炎球菌感染症の60〜75%に有効と報告されており、欧米ではこの10年で細菌性髄膜炎などの重症感染症が劇的に減少しました。日本でも特に重症の肺炎球菌感染症の撲滅に向かって効果を発揮すると期待されています。

 肺炎球菌ワクチンは生後2カ月〜9歳以下まで接種できます。しかし、肺炎球菌感染症は乳幼児の方が重症化しやすく、できるだけ早期の接種が望まれます。

 標準的な接種方法は、生後2カ月〜6カ月で始めて4週間以上の間隔で3回、さらに1歳〜1歳3カ月の間に追加で1回の計4回打ちます。生後7カ月〜1歳未満で開始した場合は接種回数は3回、1歳〜2歳未満の場合は2回、2歳〜9歳以下は1回となります。

 副反応としては接種部位の発赤や腫れ、痛み、発熱などが報告されていますが、特に重大なものは認められません。

 ただし、任意接種のため費用は1回につき1万円程度かかり、4回接種で約4万円の負担になります。普及のためには欧米のように国による定期予防接種化が強く望まれるところです。

 現状では負担が大きくはありますが、肺炎球菌による感染症、特に髄膜炎の予防対策としては唯一の方法です。乳幼児ならだれでもかかるリスクがあります。ぜひ接種をお勧めします。

 細菌性髄膜炎の原因は肺炎球菌と、インフルエンザ菌b型(略称ヒブ)で90%を占めています。ヒブワクチンの接種は08年12月から開始されており、これで小児の二大感染症のワクチンがそろいました。ワクチンの相談、予約は最寄りの小児科に問い合わせてください。

(長崎市かき道1丁目、はやし小児科 院長  林 克敏)

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