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2010年7月19日掲載

油断できない脂肪肝

 近年、内臓脂肪蓄積によって生じるメタボリックシンドローム(メタボ)が注目されています。このメタボの中で見逃せない内臓の状態があります。それが「脂肪肝」です。

 脂肪肝とは肝臓に中性脂肪が必要以上にたまり過ぎた状態で、栄養の取り過ぎ、過度の飲酒をする人によく見られる状態です。以前はアルコール摂取による脂肪肝がほとんどでしたが、飽食と運動不足の現代で肥満によって引き起こされる脂肪肝が増えています。このように過度の飲酒歴がなくてもアルコール性肝障害によく似た脂肪性肝障害を起こしている状態を「非アルコール性脂肪性肝疾患」(NAFLD)と呼びます。

 肝臓はもともと「沈黙の臓器」といわれ、肝細胞がある程度破壊されても症状が出ません。しかし、限界を超えると一気に症状が進み、元に戻れなくなります。NAFLD患者の約10%が肝細胞が破壊されている肝炎の状態です。これを「非アルコール性脂肪性肝炎」(NASH)と呼び、NAFLDの進行した状態と考えられています。

 この状態になっても適切な治療を受けないと、5年から10年の間に5〜20%の人が肝臓が硬くなる「肝硬変」に進行します。肝硬変になると、さらに黄疸(おうだん)や腹水、昏睡(こんすい)などの肝不全症状が出現する割合が40〜60%、肝細胞がんを発症する可能性が5年間で約15%にもなります。5年後に生きている割合を表す5年生存率は60〜90%に低下します。主な死因は肝不全、肝細胞がんとされます。

 肝硬変はウイルス性やアルコール性の肝硬変と同じ病気の状態です。薬物療法では限界があり、元に戻すことはできません。最悪の場合、肝臓移植が必要になります。

 このように脂肪肝を治療せず放っておくと、知らない間に肝硬変まで進行してしまう場合があることを知っておくことが重要です。
 NAFLDやNASHの治療はメタボになっているなら、食事療法や運動療法など日常生活の是正が基本となります。糖尿病、高脂血症、高血圧などがある場合にはそれらの管理も重要となります。

 注意したいのは、NAFLDやNASHはメタボに該当する人だけでなく、やせ形の人にも少ないながら起こるということです。ある種の薬の内服でも起こるといわれています。太っていないから安心というわけではありません。

 脂肪肝は一般的な血液検査だけで判断することが難しく、超音波検査やCTによる検査が必要です。超音波検査は痛みなどがない簡単な検査で、診療所などでも受けることができます。NASHが疑われた場合には大きな病院で肝生検など、さらに詳しい検査を受けることをお勧めします。

 飽食、ストレス社会の現代において、糖尿病、高脂血症、高血圧は認知度が高い病気ですが、それに隠れている脂肪肝も忘れてはならない病気の一つであることをぜひ認識していただきたいと思います。

 (長崎市梁川町、奥平外科医院 院長  奥平 定之)

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