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2010年8月16日掲載

のどの『がん』

 咽頭(いんとう)がんと聞いてピンとくる方は何人いるでしょうか。のどに発生するがんのことです。

 日本人には肺がん、胃がん、大腸がんが多く、三大がんとも呼ばれ、認知度も高いと思われます。最近では指揮者の小澤征爾さんや歌手の桑田佳祐さんがかかった食道がんや、乳がん、子宮がんの病名も聞いたことはあると思います。咽頭がんは中高年の男性に多くみられますが、まだまだ認知されていないのが現状です。そこで今回は増加傾向にある咽頭がんについてお話しします。

 のどは鼻の奥、口の奥から食道までの間で、生きていくのに欠かせない呼吸、そして食べることにかかわっている重要な場所です。

 咽頭がんはのどの表面の粘膜に発生します。しかし、のどの粘膜は伸縮に富むため、表面上の小さながんでは症状はほとんど出ません。徐々に広がり深部に浸潤しても、ひりひり感や違和感が少しある程度です。

 さらに進行すると、食事がしにくく、声が出にくくなります。のどの症状はないのに、首のリンパ節が大きくはれたりします。初期に見つかることは少なく、大半が進行した状態で発見されるため、非常に治りにくいがんの一つです。

 それでは、どのような人に発生しやすいのでしょうか。長年喫煙している人や、飲酒の習慣がある人は要注意です。たばことお酒の両方を好まれる人はさらに危険度が高くなります。

 アルコールは体内でアセトアルデヒドに分解されますが、その分解酵素が不十分な体質の人が飲酒を続けると飛躍的に咽頭がんや食道がんの発生率が増加します。初めてお酒を飲み始めたころ顔が赤くなったり、弱かった人は要注意の体質と言えます。

 咽頭がんの治療は手術、放射線、抗がん剤の組み合わせになります。ごく初期の場合は、のどの一部を切り取る手術で済むことがあり、ほとんど後遺症もなくて済みます。

 進行すると手術と放射線、抗がん剤を用いた治療が必要となります。喉頭(こうとう)、いわゆるのど仏の部分を摘出し、腸の一部を取ってのどを作り直す大手術となる場合もあります。喉頭を摘出すると声を失うため器具を使うか、筆談でコミュニケーションをとることになります。

 このような大掛かりな治療を行っても、再発や転移が出現し、完全に治る確率は低いのが現状です。従って、他のがんと同様、早期発見、早期治療が重要となります。喫煙者や習慣的に飲酒される方は定期的にのどの検査を受けることをお勧めします。

 検査では内視鏡やファイバースコープを利用して詳細に粘膜表面を観察します。ごく初期のがんを除いて、まず見逃すことはありません。ごく初期であっても、最近はそれを補う特殊な「NBI内視鏡」も登場し、病変が見つけやすくなっています。飲酒や喫煙の習慣のある人やのどに違和感がある人は早めに耳鼻咽喉科の受診をお勧めします。


(長崎市大黒町、コムロ耳鼻咽喉科クリニック 院長  小室 哲)

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