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2010年11月1日掲載

腹腔鏡手術の光と影

 最近、最先端医療として脚光を浴びる腹腔鏡(ふくくうきょう)手術についてお話します。

 「腹腔」とは「おなかの中」、「鏡」は「カメラ」を意味します。腹腔鏡と呼ばれるカメラをおなかの中に挿入し、外科医の目のかわりにテレビモニターに映し出された画像を見ながら、細い棒のような道具を用いて手術を行います。

 腹腔鏡による胆のう摘出術では1センチ前後の開腹創を数カ所開けるだけですみ、この小さな創から胆のうを取り出すことができます。一般的に、腹腔鏡手術は開腹創が小さいため、手術後に痛みが少なく、腸の働きの回復が早く(食事が早く開始でき)、早く退院できて、美容的であることが利点です。開腹創の大きな従来の方法と比較して、患者さんに極めて大きな福音をもたらしました。

 一方で、腹腔鏡手術はさまざまな欠点もあります。おなかの中に炭酸ガスを入れ膨らましてから手術をしますので、心臓や肺に悪影響を及ぼすことがあります。

 元来、人間は天賦の才能である触覚を有する手を使ってさまざまな技術を培ってきました。しかし、腹腔鏡手術は外科医の手の触覚を使わず手術をするので、がんの広がりなどの病変部を触ることもできません。臓器を傷つけやすく、手術時間が長時間にもなります。はしを使って豆をつまむことを想像してください。指では容易につまむことができるのに、はしでは容易につまむことができません。それと同じことが腹腔鏡手術では生じるのです。

 故に、以前より合併症で不幸な転帰となった事例が新聞に掲載されているように、腹腔鏡手術に特有の重大合併症があるのも確かです。

 また、腹腔鏡手術の手術・麻酔料金は通常の手術に比べて高額に設定されており、入院費用が高くなります。大量の炭酸ガスを使用して排出し、たくさんの使い捨て医療器具を使用します。費用がかかり、地球にも優しくありません。

 私の専門分野である大腸がんの手術についてお話します。大腸がんは進行してくると大きさが5センチくらいになります。これをおなかの中から取り出すためには、がんの大きさより大きい開腹創が必要となります。腹腔鏡手術も例外ではなく、大腸がんに対する腹腔鏡手術は「おなかを開けないで行う手術」では決してありません。

 ちなみに、私は腹腔鏡を使用せずに、手術の開始時から必要最小サイズの開腹創にて手術を行っています。「小開腹」あるいは「ミニマム開腹創」手術と言います。この方法では、小さい創で、「触覚」のある外科医の手で行うため短い時間で安全に、使い捨て器具などを使わないために費用を抑え、また、患者にも地球にも優しい手術が可能です。

 患者や家族が腹腔鏡手術を勧められた場合は、長所と短所を十分に理解されてから手術を受けられるように望みます。腹腔鏡手術は一見、華やかな先進手術と思われがちですが、影の部分も多くあることも知っていただければと思います。

 (長崎市片淵2丁目、済生会長崎病院 副院長・外科部長  中越 享)

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