>>健康コラムに戻る

2010年12月20日掲載

機能性消化管障害(FGIDs)

 胃がもたれる、胃が痛む、下痢や便秘を繰り返すなどの症状で病院にかかっても、検査では異常がないと言われて悩んでいる人はいませんか。このように消化器症状があるにもかかわらず、内視鏡や透視、血液検査で異常が見つからない場合を「消化器不定愁訴」と呼びます。さらに近年は「機能性消化管障害」(FGIDs)という呼び方がされるようになってきました。

 FGIDsは、慢性の腹部症状を呈するにもかかわらず、検査によって器質的疾患(がん、潰瘍など)が認められない機能性の消化器疾患群と定義されています。

 主な症状が消化管のどの辺りから起こっているように見えるかによって食道、胃・十二指腸、腸などに分類されますが、それぞれの臓器に原因が確認できるわけではありません。消化管に対する酸や食物の刺激、内臓知覚過敏、消化管運動異常、心理的・社会的ストレス、炎症と免疫など複数の要因が関わっていると考えられていますが、十分に解明されているとはいえません。

 また、症状も常に現れているわけではなく、これらのストレスが負荷されたときに機能障害が出現する、つまり個々のストレス応答性によって症状の強さや頻度が変わってきます。このため、画一的な治療では対応が困難な場合も少なくありません。

 代表的なFGIDsには、胸やけを訴える「非びらん性胃食道逆流症」(NERD)、胃痛や胃もたれを訴える「機能性胃腸症」(FD)、下腹部痛や下痢・便秘を訴える「過敏性腸症候群」(IBS)などがありますが、これらの症状は重なって出ていることも多く、病態をより複雑にしています。患者さんは最も困っている症状を訴えることが多いため、医師がこうした合併症状を見逃すケースも少なくありません。

 このように多種多様で複雑な症状・病態を示すFGIDsは、治療も一筋縄ではいきません。生活習慣の改善と薬物治療が中心で、消化管運動改善薬や胃酸を抑える薬を使います。消化管知覚過敏には漢方薬なども用います。

 胃に関してはピロリ菌感染の影響も指摘されており、除菌や除菌後の酸分泌抑制が行われています。不眠やうつ、パニック障害などと共存していることも多く、抗うつ薬や抗不安薬の投与が効くこともあります。人によっては病院を受診して話をするだけで症状が軽減したり、検査をして異常がないと聞けば軽快したりすることもあります。

 ただ、複数の症状を合併していると主症状は改善しても他の症状が残り、治療に満足できないこともあります。

 FGIDsは生命への影響はなく軽視されがちです。しかし、患者にとっては日常生活や仕事に支障が出るなど、生活の質を低下させます。労働生産性の低下など、社会的にも大きな損失を招くことになります。医師と患者の間で病状把握に努め、根気よくその患者に適した治療を見つけることが重要です。

 (長崎市桜町、赤司消化器クリニック 院長  赤司 有史)

>>健康コラムに戻る