>>健康コラムに戻る

2011年4月4日掲載

緩和ケアとリビングウイル

 「緩和ケア」とは、がんに伴う痛み、心の悩み、療養場所や医療費のことなど、患者や家族が直面するさまざまな問題を解決する医療のことです。病気の時期や療養の場所を問わず、いつでも、どこででも提供されることを目指しています。

 しかし、日本は欧米に比べ緩和ケアサービスが不十分で、痛みを和らげる医療用麻薬の利用も少ないのです。がん患者の多くが病院で亡くなっており、結果として、患者の希望に沿った場所で満足のいく療養生活を送るのは難しい状況にあると言えます。

 厚生労働省は、がん患者が安心して緩和ケアサービスを受けられるよう研究事業「緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM)」を計画し、2008年4月から全国4地域で3年間の地域モデルづくりが行われました。

 長崎市もその対象地域として、市医師会を中心にOPTIMに取り組みました。その結果、長崎ではがんの自宅死率や、病院を退院して在宅療養をするがん患者が増加し、病院と在宅の医療連携が大きく前進しました。

 OPTIMと併せて、市医師会は「リビングウイル」の普及にも取り組みました。

 がんに限らず回復する見込みのない病気のため、死を間近に迎える末期の状態で行う治療を「終末期医療」と呼びます。その時にどうするか、「苦痛を最大限和らげる治療(緩和ケア)をしてほしい」「最期は自宅で迎えたい」「できるかぎりの延命治療をしてほしい」「無意味な延命治療は拒否する」といった希望を、元気なうちに家族と話をしながら文書にして残しておくことが大切です。

 この文書が「リビングウイル(尊厳死宣言書)」です。医師会は以前から、患者の権利として自分の意思を事前に表明するリビングウイルの重要性を広報してきたのです。

 3月で終了したOPTIMや、リビングウイルの事業成果は、長崎市が継承することになっています。新年度からは、がんに限らない医療支援と保健・福祉分野の総合的な相談窓口として、市包括ケア「まちんなかラウンジ」を市中心部に開設し、患者や家族の支援に当たる予定です。

 ラウンジ開設を記念し、市医師会は16日、日本対がん協会会長の垣添忠生先生を招いて市民健康講座を開きます。著書「妻を看取(みと)る日」でつづったみとり体験を紹介していただき、リビングウイルを含めた生きざま、死にざまを皆さんと一緒に考えたいと思います。ぜひ、お誘い合わせの上、参加してください。

(長崎市片淵1丁目、白髭内科医院 院長・長崎市医師会 理事  白髭 豊)

 ◆第27回長崎市医師会市民健康講座 4月16日(土)午後2時〜4時、長崎市医師会館(栄町2の22)7階講堂で。演題「妻を看取る日〜闘病生活・自宅での看取りの体験からリビングウイルまで〜」。講師は垣添忠生・日本対がん協会会長。

 入場無料。問い合わせは市医師会事務局(電095・818・5511)。

>>健康コラムに戻る