>>健康コラムに戻る

2011年4月18日掲載

糖尿病網膜症

 食事の高カロリー化や自動車などを使う移動が広がるにつれ、糖尿病になる人は世界中で急増し、既に2億人を超えていると推定されています。日本でも890万人に達し、さらに増加しています。

 糖尿病の目の合併症では白内障などもありますが、最も多くて、またやっかいな合併症が網膜というカメラのフィルムのような所を患う糖尿病網膜症という病気です。糖尿病患者の約40%はこの病気を発症しています。悪化してしまう人も多く、現在でも緑内障と並んで失明の大きな原因となっています。

 糖尿病は体中の血管を侵す病気とも言えます。腎臓、神経、網膜の三大合併症は小さな血管が病気になって、出てきます。大きな血管が悪くなって起きる合併症の脳卒中と心筋梗塞は、網膜症のある人で発症しやすいことが分かっています。

 さらに、恐ろしいことに網膜症がある人は死亡率さえも上がってしまうので、眼科医による眼底写真の評価はとても大切です。糖尿病の人は面倒でも時々、網膜を撮影して評価してもらってください。

 糖尿病網膜症にかかっても最初はあまり症状が出てきません。糖尿病の状態が長い期間悪いと、「負の遺産の効果」といわれるように、病気の進行が止まりにくくなりがちです。とても血糖値が高い人が急激に正常値に向かうように薬物などで治療すると、網膜症は逆に悪化してしまうこともあります。

 早期発見が一番重要です。目が見えにくいなどの強い症状が出てから眼科に駆け込むようでは治療が困難な場合もあります。メタボ健診などの検査で、糖の異常があれば眼科検診を受けた方がよいでしょう。多くはありませんが、糖尿病ではない程度の軽い糖の異常の人にも時に糖尿病網膜症と同様の異常が起こることがあるからです。

 また、糖尿病の合併症は血管の病気ですから、喫煙は悪化因子になりますので、是が非でも禁煙してください。

 遺伝子との関連では欧米人に比べ、アジア系は糖尿病になりやすいことが分かっています。しかし、現状では糖尿病の発症に関係している遺伝子と糖尿病網膜症の悪化に関係している遺伝子がどの程度同じなのかさえ分かっていません。両親や血縁者に糖尿病網膜症で障害を受けた人がいないかなどを参考にする程度しか、遺伝的な関連は追求できないでしょう。

 現在、眼科では眼底撮影の検査のほかに、OCTといわれる網膜の3次元立体解析ができる施設も増えています。網膜の変化を数ミクロン単位で捉えることができます。

 県内では長崎大学病院眼科(北岡隆教授)と眼科診療所、病院との病診連携により、不幸にしてかなり悪化した患者でも眼球の硝子体(しょうしたい)手術などの高度な医療が受けられる体制となっています。

 糖尿病の人は「あまり変化がない」「まだまだ大したことない」と油断せず、血糖のコントロールを内科で十分行いながら、眼科の定期検査を必ず受けてください。


(長崎市滑石3丁目、中村眼科 院長  中村 充利)

>>健康コラムに戻る