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2011年5月16日掲載

心臓手術支えるチーム医療

心臓の手術というと、大変大きな手術で、身を引いてしまう人が多いと思います。しかし、医療技術の進歩は目覚ましく、体に優しい手術を安全に行う技術やシステムが出来上がってきました。外科医以外にも、多くの専門プロフェッショナルが最先端のケアを提供し、患者さんが快適に、速やかに日常生活に復帰できるようになりました。

 人工心肺装置を使わずに行う「心拍動下冠動脈バイパス術」、精緻な顕微鏡下手術、ゴルフボール大の穴から心臓内部を修復する小切開手術、あるいは人工心臓などの先端手術を支えてくれるのは、術中エコーや最新の薬で心臓の動きを制御し、安全を確保してくれる心臓麻酔専門の医師たちです。

 術直後の不安定な時期を管理するのは、苦痛や痛みを緩和する薬剤など、集中治療に特化した専門の集中治療麻酔医、看護師たちです。

 また、術前よりリハビリセンターの専門スタッフが患者さん一人一人に合わせたリハビリを計画し、手術直後から実施してくれます。このリハビリの効果は目覚ましく、以前は痛みを我慢しながら体を緊張させていた患者さんが、術後すぐに手や足をゆっくり動かし、体の緊張をほぐし、全身をリラックスすることができます。そうすると、みるみる患者さんは楽になり、笑顔が見られ、翌日には立ち上がり、食事、トイレ歩行などをスムーズに開始できます。

 栄養管理センターのスタッフは、ただ塩分を抑えた減塩食や糖尿病食などの計算をするだけではありません。いろんな病気に合った食事のバリエーションを提供し、患者さん一人一人の好みに合った食事を準備してくれます。飲み込む力の弱い人、食欲の湧かない人には直接話を聞きながら、とろみや、味、さらにはおやつの工夫をしてくれます。

 80歳を超える高齢の人も心臓手術を受ける機会が多くなってきましたが、これらの患者さんでは、飲み込むべきものが気管の中へ流れこんでしまう誤嚥(ごえん)性肺炎が大きな問題でした。それも今では、口腔(こうくう)ケア摂食嚥下(えんげ)訓練センターの専門の医師、スタッフが正確な診断の下、飲み込む機能を訓練、リハビリしてくれるのです。

 そのおかげで高齢の患者さんの術後の肺炎がめっきり少なくなり、驚くほど早い回復が見られるようになりました。

 さらに感染の兆候や治療を指導する感染制御センター、床ずれを予防する褥創(じょくそう)予防チーム、不安や悩みの手助けを行う心理精神看護チームなど、治療を受けられる患者さんたちの安全快適な回復のための温かなメンバーがチームワークよく働いています。

 主治医が全ての仕事をこなしていた時代は終わりました。さまざまな管理やリハビリを専門的に研究・訓練している専門スタッフによるチーム医療のおかげで、心臓病の先端治療が安心して快適に受けられるようになったのです。

(長崎大学病院心臓血管外科 教授  江石 清行)


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