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2011年6月6日掲載

B型慢性肝炎の治療

 現在、日本のB型肝炎ウイルスの持続感染者は120万から150万人といわれています。多くは母子感染防止策がとられる以前に感染した人たちです。現在では新たな母子感染はほとんど起きていません。

 感染者は無症候性キャリア(感染しても肝炎の症状がなく健康な人)の時期を経て、免疫機能の発達する思春期から30歳ごろに、ウイルス感染した肝細胞を排除しようとして肝炎を発症します。多くの人はこの時期を過ぎて体内ウイルス量が減少、肝機能が正常化し、安定した状態となります。検査では、ウイルス増殖が活発であることを示すHBe抗原が陰性となり、HBe抗体が陽性(セロコンバージョン)となります。

 しかし、B型肝炎感染者の約10%は慢性肝炎に移行し、これを放置すると肝硬変、肝がんへと進行する危険があります。

 厚生労働省肝炎研究班のガイドラインでは、ウイルスの持続感染者で治療を要するのは、肝機能異常=ALT(GPT)が31以上=があり、ウイルス量が高値の人です。肝機能異常の基準が以前より低いことに注意が必要です。ALT値が40〜50前後で推移していても次第に病態が進行することがあります。

 普段の検査でウイルス量を測定する機会は少ないですが、自分のウイルス量を知ることは大事です。HBe抗体が陽性になった人はこれまで臨床的治癒と考えられていましたが、これらの中にも高ウイルス血症を示し、慢性肝炎、肝硬変へと進む人がいます。

 このため、持続感染者は定期的な受診が必要であり、ウイルス量測定が極めて重要です。

 B型肝炎の治療はガイドラインの条件に当てはまる患者さんに必要ですが、35歳を境に治療の考え方は異なります。

 35歳未満は自然にセロコンバージョンとなる可能性があり、またインターフェロンへの反応が良いといわれています。進展例でない限り経過観察やインターフェロンの長期投与が治療の主体になります。

 35歳以上は自然に臨床的治癒を期待することが困難なため、経口抗ウイルス薬の投与が主体となります。

 かつてB型肝炎は有効な治療法がなく、進展を止めることが困難でした。2000年に最初の経口抗ウイルス薬が発売され、治療は飛躍的に進歩しました。特に06年に発売された「エンテカビル」はウイルスが耐性を獲得する率も低く、長期にウイルス量を抑えることができるようになりました。肝硬変の患者さんにも病態の改善を示す例が見られます。しかし、中止が難しいなどまだ残された課題はあります。

 インターフェロンや経口抗ウイルス薬には県の助成制度がありますので、ぜひ利用してください。

 最後になりましたが、これまでB型肝炎、C型肝炎のウイルス検査をしたことがない人はぜひ一度、HBs抗原、HCV抗体の検査を受けてください。陽性の結果であれば、必ず医療機関を受診するようお願いします。

(長崎市籠町、十善会病院 内視鏡部長   馬渡 文弘 先生)



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