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2011年9月19日掲載

変形性膝関節症の治療法

 変形性膝関節症は高齢者の整形外科の代表的疾患であり、関節軟骨の退行変性により膝関節に変形、破壊を徐々に生じる疾患です。膝関節痛を伴う変形性膝関節症の患者数は820万人と報告されており、加齢による変性疾患は今後ますます増えると予測されています。

 日本人はいわゆるO脚変形といわれる膝の内反した変形を生じることが多いといわれ、高齢の女性に多く見られます。

 症状としては膝関節内側の痛みを歩行時、立ち上がり時に自覚します。これは内反変形に由来し、立位時の荷重線(大腿=だいたい=骨骨頭の中心と足関節の中央を結んだ線)が膝の内側を通ることが原因です。症状が進むと可動域制限、関節水腫を生じ、末期には歩行困難を来します。このような日常生活動作(ADL)の障害は、個人の生活の質(QOL)を低下させる結果となります。

 今回は変形性膝関節症に対し、どのような治療法があるか紹介します。治療の目的は除痛と可動域改善であり、さらにADLの確保とQOLを向上させることです。

 治療の基本は運動療法、薬物療法などの保存療法ですが、保存療法が無効の場合は手術療法が選択されます。

 手術療法には大きく分けて二つの方法があります。一つは関節外の脛骨(けいこつ)近位部で骨切りを行うことにより、下肢のアライメント(骨配列)を至適化し、痛みを取る脛骨高位骨切り術と、変形が明らかな関節部分を人工の物に取り換えてしまう人工関節置換術があります。

 脛骨高位骨切り術は比較的年齢が若く、膝内側部分の変性変形があり痛みを伴う患者に適応があります。

 人工関節は関節全体が変形して痛みが強く、正座もできず、歩行困難な患者に適応があります。人工関節置換術の目的は除痛と可動域改善です。120度程度の屈曲と歩き方を良くし、O脚変形も真っすぐな脚に戻し、確実に除痛が得られる手術です。

 かつては人生50年といわれましたが、今や80代でゴルフ、海外旅行を楽しむ時代です。もし人間の体に人工の物を入れることが何か悪いことをするかのような考えがあれば、それは改めるべきものと思います。

 車と人間を比較するのは無理があるかもしれませんが、乗用車は新車から中古車、そして廃車となりますが、メンテナンスをよく行い、悪いパーツを取り換えることによって長く運転を楽しむことができます。人間の体も同様であり、退行変性で悪くなった関節の一部分を取り換えることで痛みから開放され、また楽しい健康長寿を過ごすことができると思います。

 手術が簡単なわけではありませんが、医学の進歩によって術後の感染、静脈血栓、肺塞栓(そくせん)などの合併症に対しては十分対応できるようになってきました。膝関節が痛く、つらい、歩けないという方はぜひ、専門の整形外科を受診して適切な治療を受けられることをお勧めします。きっと痛みのない健康長寿を楽しむことができると思います。

(大村市久原2丁目、長崎医療センター整形外科 部長  本川 哲)

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