>>健康コラムに戻る

2011年12月19日掲載

「胃ろう」


 生命を維持するには食物の摂取は欠かせず、適切な栄養素を取る必要があります。口から栄養を取ることができなくなったときの栄養補給方法の一つは静脈を使って行う、いわゆる点滴です。

 しかし、手足の末梢(まっしょう)静脈を使用する方法では栄養が不十分なため長期間の栄養管理には向きません。大きな静脈を使用する中心静脈栄養は完全に近い栄養投与が長期間可能で、確実に栄養補給ができますが、管理の煩雑さや長期間腸管を使用しないために腸管機能が低下するなどの問題があります。

 もう一つの方法は、胃腸を使用する経腸栄養で、消化管を活用する生理的な栄養補給経路です。チューブを鼻から胃あるいは十二指腸まで挿入して栄養剤を注入する「経鼻法」と、胃や腸に小さな穴「瘻孔(ろうこう)」を作り、これより栄養剤をチューブで注入する「経瘻孔法」があります。

 経鼻法は比較的簡単にでき、短期間の栄養管理にはよく使用されますが、異物感や咽頭痛などがあります。

 経瘻孔法は従来、瘻孔を開腹手術で作っていました。最近は開腹手術をせず、内視鏡で胃の内部を確認しながらチューブを経皮的に胃内に挿入する経皮内視鏡的胃瘻造設術(胃ろう)が普及しています。

 胃ろうは「おなかにもう一つ小さな口」を作る手術です。1970年代後半に小児外科医らが子どもに行ったのが最初といわれています。口から食事の取れない人や、食べてもむせ込んで肺炎などを起こしやすい人に、胃に直接、栄養を入れる方法です。消化管機能が正常であることと、4週間以上の生命予後が見込まれることなどの適応条件があります。

 胃ろうが作られていても、口から食べることは可能で、むしろ食べるリハビリに適しています。入浴も可能で、ばんそうこうを貼る必要もありませんので、介護施設や在宅での生活が可能になる場合もあります。ただ、誤嚥(ごえん)性肺炎がなくなるわけではありません。

 胃ろうから十分な栄養、水分、必要な内服薬を投与しながらリハビリを行い、口から十分に栄養が取れるようになれば、胃ろうのチューブを取り除くこともできます。瘻孔は3時間ほどで自然にふさがります。

 誤嚥性肺炎を繰り返し寝たきり状態となった、ある90代の患者さんの症例では、胃ろうから栄養を補給しながらリハビリを行いました。半年後には口から十分な食事が取れるようになったので、胃ろうチューブを取り除き、さらには平行棒での歩行ができるようになって退院されました。

 問題点としては、胃ろうを作る手術やチューブ交換時の合併症の危険性がわずかですがあることです。病状によっては延命処置としての倫理的問題などもあります。それぞれの終末期の考え方や病状によって適応は異なります。患者さん本人と家族、主治医とよく相談して検討されると良いでしょう。

(長崎市琴海村松町・大石共立病院 副院長  梶山 勇二)


>>健康コラムに戻る