>>健康コラムに戻る

2012年2月6日掲載

「アレルギーで起こるせき」


 アレルギーが原因で起こるせきが最近、注目されています。

 ぜんそくやアレルギーの人が日本では増えており、特にアレルギーの子どもが著しく増加しています。しかし、欧米の酪農地帯ではぜんそくの子どもは少ないのです。なぜでしょうか。酪農地帯は空気がきれいだから? いえ、違います。

 酪農地帯では子どもが生まれても、お母さんは牛や馬の世話をしないといけないので、赤ちゃんを乳母車に乗せて牛小屋や馬小屋に連れて行き、牛や馬の横でおっぱいを飲ませます。すると、赤ちゃんの体はどうなるかというと、周囲に細菌やカビが多いため、血液中の白血球のほとんどが「好中球」になるのです。

 白血球は種々の異物が私たちの体に入ってきたとき、それらから体を守る細胞です。白血球の中には、細菌やカビと闘う「好中球」、ダニや寄生虫をやっつける「好酸球」、ウイルスなどに対応する「リンパ球」などがあります。

 生まれてすぐ細菌が多い環境で育った子どもは、白血球のほとんどが好中球にならないと、肺炎や髄膜炎など感染症で死んでしまいます。

 では、そうした環境でぜんそくになりにくいのはなぜでしょうか。それは好中球がたくさんできる反面、好酸球が少ししか作られないからです。ぜんそくは好酸球が気管支に集まることから起こるものだからです。

 日本ではどうかというと、赤ちゃんは清潔な環境で育つため、好中球は白血球の60%ぐらいで、残った40%の中から好酸球がたくさん作られることになるわけです。

 そもそも好酸球とはどんなものなのでしょうか。その原点は人間がまだ野山で生活していた時代にさかのぼります。

 そのころ、人間は吸血ダニに刺されて病気になり大変困ったので、ダニから体を防御するために好酸球を作るように体を発達させたのです。

 どのような仕組みかというと、好酸球がIgEという抗体を産生し、IgEがマスト細胞に働いてヒスタミンを出させます。IgEがたくさん作られるとヒスタミンが血液中に増え、ヒスタミンの多い血を吸ったダニがショック死するのです。

 しかし、人間が吸血ダニがいない、環境の良い所に住むようになると、好酸球は今度はほこりとともに吸い込んだダニに反応して、気管支に集まるようになったのです。それは気管支にヒスタミンが増えることを意味します。

 ヒスタミンは私たちがじんましんを起こしたときなどに皮膚が赤く腫れるように、アレルギー反応を起こす物質です。ぜんそくはヒスタミンによって気管支の粘膜が赤く腫れ上がり、気管支が狭くなるために起こるのです。

 ぜんそくの治療で使われる吸入ステロイド薬は、このアレルギー反応を抑える薬です。ダニ、ハウスダストなどに対するアレルギーで起きるせきに有効であり、気管支だけにしか到達せず、全身に対する副作用がありません。ぜひ専門医に相談してください。

(長崎市元船町、あおぞら内科クリニック 院長  笹山 一夫)


>>健康コラムに戻る