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2012年4月16日掲載

「増え続ける乳がん」


 乳がんは女性が罹患(りかん)するがんでは患者数ナンバーワンで、国内では年間5万人以上が新たに乳がんと診断されています。30代から60代前半の女性のがんでは最多です。つまり子育てや仕事を担う年代の女性が多く、罹患による社会的な損失は甚大です。

 さらに生涯で見ると、女性の約16人に1人が乳がんになるといわれています。小学校時代のクラスメートの女子のうち1人以上は乳がんにかかるとイメージすれば、実感が湧きやすいでしょうか。欧米諸国と比較するとまだ少ないですが、徐々に増加しているのです。

 国立がん研究センターの資料では5年生存率は約85%で、その他のがんと比較すれば良い方です。しかし、年間死亡者数は1万2千人を超えており、罹患数と同様に増加傾向にあります。

 今のところ予防はできませんが、早期発見により死亡者数を減らすことはできます。

 早期発見のためには40歳以上の女性に対するマンモグラフィー検診が有用といわれており、しこりなどの自覚症状がない方も受けることをお勧めします。どこで受ければよいか分からない場合は市町村役場や医師会に相談してください。検診医療機関は予約が必要な場合がほとんどですので、医療機関に直接問い合わせてください。

 乳がんの治療は、可能な場合は手術により乳房の病変を取り除きます。手術は大きく分けて、乳房切除術(乳房全摘術)と乳房温存療法(乳房部分切除術)の二つがあります。長崎大学病院では切除術と同時に、おなかや背中の筋肉と脂肪を移動させてふくらみを戻す自家組織による乳房再建術も行っています。

 超音波検査や磁気共鳴画像装置(MRI)などで脇の下のリンパ節への転移が明らかでない場合には、乳房の手術の際にリンパ節に転移がないかどうかを調べる手術を同時に行います。これをセンチネルリンパ節生検と呼びます。当院でもこの手法を用いて、リンパ節転移のない方に無駄な手術を行うことがないようにしています。

 手術後には抗がん剤やホルモン治療剤を使用する場合がほとんどです。最近では手術の前にこれらの薬物療法を行うことがあります。薬物療法により乳房の腫瘤(しゅりゅう)が縮小すれば、それまで不可能だった乳房温存療法が可能になる場合があります。

 薬物療法は個々の乳がんの性状に合わせて選択するようになりました。例えば、がん細胞が女性ホルモンの刺激で大きくなるタイプかどうか、Her2(ハーツー)というレセプター(刺激を受けるアンテナのようなもの)を持つかどうか−などを見極め、適切な薬物を使う必要があります。

 遺伝子異常などのがんの性状が分かっていくに従い、対応する薬物の治療選択肢は今後も増え続けることでしょう。いわゆる「オーダーメード医療」の時代が到来しようとしています。それに対応できるように日夜、研さんしていくことがわれわれ専門医の使命と考えています。

 (長崎大大学院医歯薬総合外科研究科 腫瘍外科 助教  矢野 洋)

 

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