2012年5月21日掲載
「脳梗塞の治療について」
長崎大学病院脳卒中センターは、脳卒中内科医と脳神経外科医が有機的に結合し、脳血管疾患に対して日本国内でも屈指の脳卒中専門医療を実践しています。実際に多くの患者さんの診療にあたってきた脳卒中専門医として、常日ごろ念頭に置いている三つの大原則をご紹介します。
(1)軽症の脳梗塞だから大丈夫とは限らない
脳梗塞とは脳の血管が血栓(血の塊)で詰まってしまう病気です。そのような血栓ができる原因として動脈硬化によるものと心臓の病気によるものがあります。
脳梗塞の特徴は▽手足のまひやしびれ▽顔面まひ▽ろれつが回らない▽ふらふらして歩けない▽ものが二つに見える▽視野の片側が見えない−などの症状が突然発症することです。
それと忘れてならないもう一つの特徴は、再発が多いことです。
一般的に軽い脳梗塞と呼ばれるものには、一過性脳虚血発作(脳梗塞の前触れ発作とも呼ばれます)といって、15分くらいで症状が改善してしまうものから、数時間から数日で症状がほとんどなくなるか、日常生活に支障がなくなるものまであります。
最近の研究では、この軽症脳梗塞の約2割の人が3カ月以内に再発することが分かりました。特に、そのうち約半分の1割の人が2日以内に再発します。しかも、脳梗塞が再発すると重症化することが多いようです。
一見、言語障害だけで、自分で歩くこともできる軽症の患者さんでも、それは物語の始まりにすぎず、数時間後に大梗塞を起こすこともありうるのです。
(2)適切な初期治療と原因診断を徹底する
発症3時間以内であれば、点滴によって詰まった血栓を溶かすことが可能です。さらに発症8時間以内であればカテーテル治療によって血栓を取り除くことができる場合があります。
近年、再発予防のための新しい抗血栓薬が次々に販売されています。原因診断を徹底し、各薬剤の特徴を十分に把握した上で、症例ごとに最適な抗血栓療法を行えば、効果的に再発を抑制することができる時代となってきています。
(3)脳梗塞の治療は年齢で差別できない
脳梗塞患者さんの一番多い年代は70〜80代の方です。ゆえに脳梗塞を重症化させないことは、寝たきり患者さんを少なくし、将来の認知症の発症を抑えることに直結します。超高齢社会が進む中、一人でも後遺症の重い患者さんを少なくすることは非常に重要なことです。
昨年10月1日、長崎大学病院に脳卒中センターがオープンしました。救急隊だけでなく、県内の診療所や病院など全ての医療機関は24時間、365日、センターと直接ホットライン(電話)でつながっています。救急車で脳卒中センターまで来られるのがベストですが、救急車を利用しなくても良いと判断された場合は近くの病院やかかりつけ医に連絡してセンターを紹介してもらってください。われわれが全力で診療いたします。
(長崎大学病院脳卒中センター 准教授 辻野 彰)
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