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2012年6月18日掲載

「『切らない』痔核治療法」


 「排便時に出血する」「肛門から脱出がある」−、こんな症状で悩んでいませんか。日本人の3人に1人は痔(じ)の悩みを抱えているといわれています。

 西欧では痔と思ったらすぐに病院を受診するため、比較的症状が軽いという傾向がありますが、日本人は「特殊な病気」と捉える傾向があるため受診が遅れがちになるようです。恥ずかしいからと放っておくと痔は少しずつ悪化していきます。また、痔と間違いやすい重い病気が潜んでいることがありますので注意が必要です。

 痔には痔核(いぼ痔)、裂肛、痔瘻(じろう)の3タイプがありますが、全体の半数を占めるのが痔核です。

 痔核には、直腸側にできる内痔核と、肛門側にできる外痔核があります。肛門からの出血や脱出、違和感、残便感、掻痒(そうよう)感などの症状を有する場合は治療の対象となります。

 痔核の治療には大きく分けて塗り薬などの薬で治療する保存療法と、痔核を切除する手術療法、そして注射療法があります。手術は確実で有効な治療法ですが、術後の痛みを伴い、場合によっては出血などの合併症があります。

 最近、手術に代わる新しい治療法として、痔核を切らずに治す注射療法の「アルタ(ALTA)療法」が登場し注目を集めています。硫酸アルミニウム水和物・タンニン酸(ALTA、商品名ジオン)と呼ばれる薬を痔核内に注射することで、痔に流れ込む血液の量を減らし、痔を硬くして粘膜に固定させる治療法です。

 痔核を切り取る手術と違って、痛みを感じない部分に注射するので術後の痛みがほとんどありません。術後の出血が少なく、治療期間も短いため身体的、精神的、経済的負担が軽減されます。ALTA療法の効果は翌日には現れ、排便時の痔核脱出が認められなくなります。

 しかしながら、大きな外痔核や肛門ポリープなどには、ALTA療法の効果が期待できない場合があります。再発の可能性もゼロではなく、頻度は少ないものの術後一時的に現れる発熱や直腸潰瘍、狭窄(きょうさく)などの副作用、合併症も報告されています。

 薬剤の特性上、透析治療を受けている方や妊娠・授乳中の方はALTA療法が受けられません。また、ALTA療法はどの病院でも気軽に受けられる治療法ではなく、ALTAの注射手技講習会を受講した医師が在籍する施設でないと治療が受けられません。治療法を決定する際には主治医とよく相談する必要があるでしょう。

 痔は生活習慣病と考えられています。予防するには、食物繊維や水分を十分取る、トイレに長居をしない(息むのは3分以内)−など日常の食生活や排便習慣を見直すことが大切です。

 そして、おしりの症状に自己判断は禁物です。肛門からの出血や残便感などの症状には大腸がんなどの重大な病気が隠れていることがあります。便に血が混じる、便が出にくい、細いなどの場合は、不安を早く取り除くためにも、一度、専門医を受診してください。できれば定期的な診察もお勧めします。

 (長崎市葉山1丁目、光晴会病院外科 部長  岡田 和也)

 

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