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2012年7月2日掲載

「家庭医からお薬の話」


 年を重ねるにつれ、幾つもの病気を抱え、お薬をたくさん飲まれている方は少なくありません。

 私が診ている患者さんにも、心臓病、高血圧、糖尿病、高脂血症、ぜんそく、慢性気管支炎、胃炎、便秘、頻尿、前立腺肥大、骨粗しょう症、脊柱管狭窄症、認知症、脳梗塞後遺症、脳出血後遺症、不眠症など複数の病気で10種類以上の薬を飲んでいる方が結構おられます。

 複数の診療科や病院にかかっている患者さんにその傾向が強く、中には同じような効果の薬を別の診療科から出されて重複して飲んでいることもありました。

 近ごろはいろんな病気に対してエビデンス(科学的根拠)に基づいた治療ガイドラインが作られ、その中で薦められている薬を処方する専門性の高い医師が増えているのも一因かもしれません。認知症や骨粗しょう症など、高齢者に多く見られる病気に対する新薬が増えているのも拍車をかけているかもしれません。それに、いったん飲み始めた薬はなかなか中止できず、病院にかかるたびに薬が増えていく傾向もあるようです。

 でも、「そんなにたくさんの薬をずっと飲み続ける必要があるのか」と思われる方は多いのではありませんか。

 しかし、勝手に薬をやめるのは危険です。急に中止すると大変な問題が起こる薬もあります。

 薬は必要に応じて正しく使えば健康的な生活を支えてくれるつえにもなりますが、飲み方次第では毒になることもあります。薬同士がお互いの効果を強め合ったり、逆に弱めたりすることもあります。腎臓や肝臓の働きが低下していると普通に使う量でも効果が強すぎる場合があります。高齢者が若い人と同じ量を使うと、副作用が出る可能性があるのです。

 私たちのような家庭医(ホームドクター)は、そんな薬の加減を調整するのが大きな役目の一つと考えます。

 脳梗塞や心筋梗塞の予防薬のように命に関わる薬は当然、やめられません。背骨の圧迫骨折などいったん起きると、その後の生活に支障を来す可能性の高い病気に対する薬も同様です。

 でも、一時的な症状に対する薬や、飲んでいても効果がはっきりしていない薬を漫然と使い続ける必要はないでしょう。

 近ごろ、医療費を抑える目的で低価格のジェネリック(後発品)の使用が推進されています。テレビや新聞などでも広告を目にすることが多くなりました。でも、単に安い薬を使って医療費を抑えるだけでなく、不要な薬の使用をなくすことも重要です。

 生活習慣の改善による病気の予防が大切なのは言うまでもありませんが、それで全ての病気を完全に抑えることは不可能です。

 高齢者の診療に携わっていると、たくさんの薬を飲んでいる患者さんの多さを痛感します。患者さんやご家族は主治医の先生とよく相談して、お薬の見直しを検討されてはいかがでしょうか。

 (長崎市滑石5丁目、滑石まごころクリニック 院長  森川 俊一)

 

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