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2012年7月16日掲載

「胃酸逆流と耳鼻咽喉科疾患」


 胃酸の逆流というと、胸焼け、ゲップ、酸っぱいものが喉に上がってくるといった症状や、最近では逆流性食道炎という病気の名前が思い浮かぶのではないでしょうか。

 これって耳鼻咽喉科とは関係ないような気がするかもしれませんが、これらの症状、病気がなくても、胃酸逆流で耳鼻咽喉科の疾患が起こることが分かってきました。

 例えば、喉がイガイガしたり、詰まったりした感じになる咽喉頭異常感や慢性咽頭炎、長引く空ぜきなどの病気です。

 カラオケや風邪で声がかれていませんか。「今日はあまり歌ってもいないのに声がかれてしまった」とか。歌っているときは腹圧がかかるために胃酸が上がりやすくなりますし、風邪のときは胃の動きが悪くなります。胃酸で炎症を起こした喉頭に刺激が加わると、声帯が腫れ、声がかれてしまうのです。

 喉だけでなく、耳の詰まる耳管狭窄(きょうさく)症、さらに急性中耳炎や滲出(しんしゅつ)性中耳炎など耳の病気にも胃酸逆流が関係しているようです。中耳にたまった液を調べると、胃液の消化酵素ペプシノーゲンが検出されることがあるのです。

 その他にも、鼻の病気がないにもかかわらず鼻水がのどに流れる感じ(後鼻漏感)、鼻の後ろと喉の間の違和感、ぜんそく発作、口臭、口内炎など多くの病気との関わりが指摘されています。

 今回の話は少しびっくりされたかと思います。しかし残念ながら、胃酸が喉に逆流していることを確かめる一般的な検査法はまだありません。そのため、これまで話した病気に胃酸の逆流がどの程度まで関係しているのか、まだよくは分かっていないのが実情です。

 今のところは先のような症状がある場合、喉の発赤や腫れから推測するか、なかなか治らない場合に胃酸を抑える薬や胃の働きをよくする薬を処方して効果を確かめることになります。研究レベルでは、鼻から胃までカテーテルを入れて、喉や食道の酸性度(pH)を調べたりしています。

 そもそも現代は胃酸が逆流しやすい環境になっています。

 まず胃酸過多を引き起こす原因としては、アイスクリームやファストフードなどに含まれる脂肪分の取りすぎや、胃酸を中和するピロリ菌の感染減少などがあります。胃炎や胃潰瘍、胃がんの原因になるピロリ菌が少ないのは良いことですが、胃酸が増えるデメリットがあるのです。

 さらに胃酸が逆流しやすくなる原因としては、ストレスや肥満、冷たい飲み物や食べ物、過食、夜更かし、寝る前の飲食などがあります。高齢になると、胃と食道の逆流防止弁機能が低下したり、背骨が曲がることにより胃が圧迫されたりすることも影響します。

 今回話したような症状や病気があったら、皆さんの生活習慣を振り返ってみることも大切かもしれませんね。胃酸逆流の話は今後もっともっと注目されるようになり、新たな疾患との関連も明らかになってくるだろうと私は考えています。

 (長崎市桜馬場1丁目、ささの耳鼻咽喉科クリニック 院長  佐々野 利春)

 

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