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2012年8月20日掲載

「風疹と妊娠」


 風疹は風疹ウイルスによって起こる感染症で「三日ばしか」とも呼ばれます。季節的には春先から初夏にかけて流行し、感染者のせきやくしゃみを通じて感染します。

 主な症状は、全身の淡い発疹、発熱、耳の後ろや後頭部の下にあるリンパ節の腫れです。せき、鼻汁、目が赤くなることもあります。

 潜伏期は2〜3週間で、発疹の出る2、3日前から発疹が出た後の5日くらいまでは感染力があるといわれています。感染しても、子どもは3日程度で治りますが、大人になってからかかると関節痛などを伴い重症化する傾向が見られます。約15%の人は、感染しても特徴的な症状が現れない不顕性感染で終わることもあります。

 一般的に予後は良好とされますが、まれに脳炎などの重い合併症が見られる場合もあり、決して軽視できない疾患です。

 今年に入って関西、首都圏を中心に感染の拡大が続いています。国立感染症研究所によると、8月1日までの感染者数は917人(本県ゼロ)で、この5年間で最悪の流行となっています。

 妊娠中の女性が感染するケースもありますが、その場合は特に注意が必要になります。風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠初期に風疹ウイルスに感染すると、ウイルスが胎盤を介して胎児に感染(母子感染)し、生まれた子が先天性風疹症候群(CRS)になることがあるからです。

 症状は感染時期によって異なりますが、妊娠3カ月以内だと白内障、先天性の心臓病、難聴のうち二つ以上の障害を抱えて生まれてくることが多い、というのが世界的な見解です。妊娠5カ月でも難聴が見られるといわれています。

 CRSの大半は早期発見とリハビリテーションで日常生活が可能となります。白内障や先天性の心臓病は手術、難聴には補聴器をつけることなどで対応はできます。ですが、やはり母子感染そのものを防ぎたいものです。

 CRSの発症リスクを減らすため、妊娠初期に多くの自治体が公費負担で風疹抗体価の測定をしています。抗体価が低い妊婦さんは、現在風疹に感染はしていませんが、今後、風疹に感染し母子感染が生じる可能性があります。できれば人混みや子どもの多い場所は避けた方が望ましいです。

 抗体価が正常範囲の方は、現在風疹に感染しておらず、今後も感染し母子感染が生じる可能性はありません。抗体価が高い方は母子感染が生じた可能性があります。

 問題は成人男性から妊娠中の女性への感染です。風疹患者の60%が、子どものころに風疹ワクチン接種対象外だった20〜40代の男性であることが分かっています。身近に妊娠した女性、または妊娠を望む女性がいる場合、ワクチン未接種で風疹にかかったことのない男性はワクチン接種を受けてほしいものです。

 妊娠を望んでいて抗体価が低い女性も接種が望ましい。安全に妊娠するには接種前1カ月間、接種後2カ月間は妊娠を避けることが必要です。


(長崎市古川町、しもむら産婦人科 副院長  下村 修)
 

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