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2013年4月1日掲載

「減っていない結核」


 皆さんは結核という病気をご存じでしょうか。空気中に浮遊している結核菌を吸い込んで発症する感染症の一つです。日本では戦前と終戦直後にまん延し、死者も多かったため「亡国の病」と恐れられました。その後、公衆衛生の向上、治療薬の進歩などにより急速に患者数は減少しました。

 しかし、結核罹患(りかん)率(人口10万人当たりの年間患者発生件数)は1980年以降、低下の勢いが鈍り、90年代後半にはわずかですが上昇に転じました。2011年の罹患率は欧米先進国と比べるとまだ4倍以上の高い値であり、世界の中では日本はまだ結核が多い国なのです。

 日本での結核の特徴は患者の高齢化です。結核がまん延した時代を生き抜いてきた人々(現在の70歳以上)は濃厚な感染を受けており、そのような人たちからの発病が増加しているからです。10年には発生患者の59%が65歳以上でした。

 長崎県の状況はというと、残念ながら10年の罹患率は国内ワースト3位。11年は挽回したものの、それでもワースト6位でした。県内でも結核患者の高齢化は目立っており、11年に新たに登録された結核患者の実に73%が70歳以上でした。

 どうして結核が減らないのでしょうか。原因としては高齢化の進行、医学的リスクのある患者の増加などが挙げられています。例えば、最近の結核患者の20%近くが糖尿病です。他にじん肺やがん、エイズウイルス(HIV)感染、免疫抑制薬治療中の人らが結核になる例が見られます。

 また、ホームレス、生活困窮者、外国人労働者ら社会的弱者では罹患率が高いことも指摘されています。患者の受診の遅れ、医療者側での診断の遅れなども問題点として捉えられています。

 結核の制圧に向けては(1)感染拡大防止のための入院勧告制度(2)適正な医療を行うための「結核医療の基準」とそれに裏付けられた医療費公費負担制度−が2本柱となっており、保健所が大きな役割を担っています。
 発生届を受けた保健所は結核登録票を作成し、感染源・感染経路および患者の接触者の把握など積極的疫学調査を開始します。患者さんやその家族は不安の中で時間を過ごしており、保健師の面接などにより結核という病気を正しく知ることで不安が軽減されていきます。また、接触者検診を行うことにより、接触者の中から結核患者を早期発見し治療へ導くことができます。

 結核の治療に関しては厚生労働省から「結核医療の基準」が出されており、適正な薬剤を選択すれば最短6カ月で治療が完了します。この治療基準が守られているかどうかを保健所内に設けられた感染症診査協議会でチェックすることにより、適正な医療の普及がなされます。

 これまで述べてきましたように結核は決して昔の病気ではありません。万が一、結核と診断されても慌てず、しっかりと医師、保健師、看護師らの説明を聞き、確実に薬を内服するようにすれば必ず治ります。

(長崎市新地町、市立市民病院 副院長  須山 尚史)

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