2013年4月14日掲載
「あがり症(社交不安障害)」
新年度が始まりました。新入生や新入社員、新しくPTAや地域の役員となられた方をはじめ、社長さんでも部長さんでも、人前で話す、書く、食べるといったことが苦手な方にとっては頭の痛い季節です。
中でも「あがり症」の方は注目を浴びると、心臓がバクバク早鐘を打ち、赤面したり、声や体が震えたり、びっしょり汗をかいたりします。普段は何事もなく暮らしているのに、こんなふうになる自分を「恥ずかしい」と意識するとなおさら緊張が増し、症状が強くなります。
そうすると、同じ失敗を繰り返したくない(予期不安)との思いから、苦手な場面を避けたくなります。思い切って誰かに相談しても「慣れよ」「誰でもよ」なんて言われると、「自分は弱い人間なのか」と自己評価が低下し、かえって不安を強めることもあります。
知ってもらいたいことがあります。
あがり症とそうでない人は同じ土俵に立っているわけではありません。「慣れる」ことができない「社交不安障害」という疾患の方が10%前後いるのです。
「慣れる」ことができないのは、脳の神経伝達物質が関与しているからです。主にセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど。どれもみなさんの体の中で作られる物質で、特別なものではありません。
セロトニンは不安や憂うつを和らげますが、ノルアドレナリンは自律神経の交感神経を刺激してあがり症の身体症状をもたらします。
治療については、こんなふうに考えてみましょう。
一定の緊張の値が、例えば10に達するとあがり症状が出るとします。一方、緊張というものをその原因で分解して、予期不安3、恥ずかしさ3、その場での緊張5としてみます。合わせて11です。このうち不安や緊張を2減らすことができれば、症状は出ません。緊張をゼロにする必要はないのです。
症状が出ないようにして緊張場面をクリアすることを繰り返していけば、予期不安が目減りし、いわゆる「慣れる」こともできます。
そのためには注目される場面とその前段階から強い不安を抱く自分のパターンを勉強すること(認知療法)が必要です。そして苦手な場面に対する武器を持ち(薬物療法)、練習していきます(行動療法)。
武器となるお薬は次のいずれかの作用のお薬を用います。
(1)セロトニンを貯金して、不安に対処する備えをする薬
(2)症状が出る緊張の域値に届かないよう不安を軽減しておく薬
(3)交感神経の過剰な働き(身体症状)を一時的にブロックする薬
「性格だ」「弱いからだ」と考えられがちなあがり症ですが、治療できる疾患です。苦手な場面を避けてしまい、対人関係や社会生活上のチャンスを逃さないよう、心療内科などを訪ねてみてください。
(長崎市元船町、こころ元気クリニック 院長 濱本 正弘)
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