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2013年6月3日掲載

「遅れている予防接種」


 医療大国であるはずの日本ですが、予防接種制度はまだ遅れています。公的補助のある定期接種は4月の制度改正で3種が追加されて11種類となりましたが、米国の16種類に比べれば少ないのが現状です。

 今回、定期接種化された中でインフルエンザ菌b型(ヒブ)、小児肺炎球菌は敗血症、細菌性髄膜炎などの重症感染症を起こします。細菌性髄膜炎の80%はこの二つが原因で、毎年約800人が発症し、10人に1人弱が死亡、2〜3人は脳の後遺症が残ります。

 患児の多くは4歳以下、半数以上が1歳前ですので、なるべく早く抵抗力(免疫)をつけ、最低4歳まで効果を持続させるために、予防接種は生後2カ月から始め、4回実施します。

 もう一つの子宮頸(けい)がんワクチンは、性交渉でうつるがんの原因、ヒトパピローマウイルスの感染を予防します。検診の受診率が低い20〜30代の子宮がんの発症を防ぐために、12〜16歳になる年度の女性に接種することになっています。

 今回の定期接種化に取り残されたものにB型肝炎、水ぼうそう(水痘)、おたふくかぜ、ロタウイルスへのワクチンがあります。重症度、頻度は低いものの感染するといずれも厄介な病気です。

 おたふくかぜは髄膜炎を合併しやすく、10歳以降では10%弱に睾丸(こうがん)炎、卵巣炎を起こします。まれですが重大な合併症の難聴は内科的治療では治りません。おたふくかぜにかかれば、最低5日間の出席停止になります。

 水痘は有効な内服薬があり、小児では重大な後遺症を残すことはないので軽症の病気と見られがちです。しかし、治るまで約1週間の出席停止です。抵抗力の弱い新生児では致死的で、成人の初感染では高熱を伴い、肺炎を起こすことも多いのです。国内では毎年10人以上が死亡しています。

 B型肝炎ウイルスの持続感染者(キャリア)は日本では100人に1人と少ないですが、感染者の約10%ががん、肝硬変、慢性肝炎になり、残りの90%も一生、ウイルスが肝臓内に残ることが最近分かりました。

 血液を介して感染するため、病院関係者や、ウイルスを持つ母親からうつらないように、赤ちゃんに予防接種が行われています。消毒が不十分な針でピアス、タトゥーを入れた場合や性交渉、まれにキスでも感染する場合があります。小児期に感染すると慢性化しやすいため、世界の8割の国で小児期の定期予防接種が行われています。

 ロタウイルスは6歳以下の嘔吐(おうと)下痢症の主な原因菌で、脱水やけいれん、まれですが脳症、腎結石を起こします。生後6週から24週までに2回、または32週までに3回服用する飲み薬のワクチンがあります。

 最近の風疹の流行でも分かるように、ワクチンの効果は一生続くわけではありません。新しいワクチンの導入だけでなく、既存ワクチンの接種回数を増やした制度のフルモデルチェンジが早く来ることを期待します。


(長崎市出島町、白井小児クリニック 院長  永野 清昭)


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