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2013年7月1日掲載

「ヘリコバクター・ピロリ菌感染胃炎」


 ヘリコバクター・ピロリという細菌(以下ピロリ菌)をご存じでしょうか。テレビや新聞などの報道で見聞きされた方も多いかと思いますが、1983年に発見された胃粘膜に存在する細菌です。国内でのピロリ菌の感染者は人口の約半数とされていますが、感染率は50代以降の中高年者で高くなるという特徴があります。

 このピロリ菌の胃粘膜への感染により持続的な胃炎が発生します。この慢性胃炎は「ピロリ菌感染胃炎」と呼ばれ、胃・十二指腸潰瘍、萎縮性胃炎、胃MALTリンパ腫、胃過形成ポリープ、胃がんなどのさまざまな病変を引き起こす母地となります。

 80年代にはすでにピロリ菌を除去することで、この胃炎が改善することが判明していました。そのため胃・十二指腸潰瘍など一部の疾患に対する治療目的の除菌が保険適用となり、積極的に除菌による「治療」が行われてきました。

 ピロリ菌の感染者全員が胃潰瘍や胃がんといった疾患になるわけではありませんが、そうなる危険性が高い集団であるのは間違いありません。そのため今年2月から胃がんなどを含めた前述の疾病予防のため、「ピロリ菌感染胃炎」に対する除菌にも保険の適用が拡大されました。

 つまり、胃・十二指腸潰瘍でなくても、(1)ピロリ菌の感染が証明され(2)胃炎の所見がある−場合は健康保険での除菌が可能となったのです。

 「ピロリ菌感染胃炎」に対して除菌を行うためには、まず胃内視鏡検査を受けて胃がんや潰瘍などの病変がないことを確認し、さらに慢性胃炎の所見があることを確認した上で、ピロリ菌の感染の有無を検査します。感染が判明すれば除菌治療の対象となります。

 治療は3種類のお薬を1週間内服していただきます(1次除菌)。そして内服終了後4週間以上経過した段階で除菌判定を行います。

 除菌の成功率は70〜80%程度で、100%というわけではありません。残念ながら除菌に至らなかった場合はお薬の種類を変えて2次除菌を行います。2次まで合わせると、95%以上が除菌に成功します。

 注意していただきたいことは、除菌に成功すると胃がんができにくくなるのは確かなのですが、胃がんになる可能性がなくなったわけではないということです。前述したように感染した人は感染していない人よりも胃がんを発症する危険性が高いため、除菌後も定期的な経過観察が必要です。除菌したらそれで終わりというわけではないのです。

 ピロリ菌感染の診断法、除菌の具体的な方法、除菌判定法についてはさまざまな方法があり、医療機関によって若干の違いはありますが、日本ヘリコバクター学会が定めた「診断と治療のガイドライン」に沿って行われています。

 胃もたれや吐き気、痛み、食欲不振などの自覚症状のある方は、ピロリ菌感染胃炎かもしれません。気になられる方はぜひ専門の医療機関を受診してみてください。

(長崎市住吉町、藤瀬クリニック 院長  藤瀬 直樹)

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