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2013年7月15日掲載

「糖尿病の治療」


 糖尿病は読んで字のごとく「尿に糖が出る病気」ですが、正確にいうと尿ではなく血液のブドウ糖(血糖)が多くなる病気です。

 血糖値の正常範囲は70〜140で、どんなにたくさん食べても150を超えることはありません。糖尿病の大部分は食生活の欧米化や運動不足などによって起こる生活習慣病で、患者数は現在も増え続け今や国民病となっています。

 糖尿病はたいていの場合、何も自覚症状がなく、健診などで見つかります。しかし、症状がないからといって血糖値を高いままにしていると、知らず知らずのうちに「合併症」が進んでいきます。高血糖により全身の血管がボロボロになり、目がかすむ、足がジンジン・ピリピリする、タンパク尿やむくみといった症状が出たときにはかなり進んでいて、取り返しのつかない状態になっている場合もあります。

 発病すると命にかかわる脳梗塞や心筋梗塞などは、糖尿病予備軍の時からすでに進行していることも分かっています。最近の調査では糖尿病の人の平均寿命は約10年も短くなっていることが報告されています。糖尿病が「サイレント・キラー」と呼ばれるゆえんです。

 一方、治療薬は目覚ましい進歩を遂げ、きめ細やかな治療法の選択ができる環境が整ってきています。現在は6種類の飲み薬と2種類の注射薬があり、患者さんの年齢や体型、インスリンを作る力、インスリンの働き具合、合併症の程度などによって薬を決めます。

 最近発売された中には、腸管で作られるインクレチンというホルモンを増やして血糖を低下させる薬(飲み薬、注射薬)があります。週1回注射の薬も使用可能となりました。尿にブドウ糖を放出して血糖値を下げる飲み薬など、新薬の治験も進められており、これらも近い将来、広く使用可能になる見込みです。

 しかし、糖尿病の治療では、生活習慣の是正が基本であることに変わりありません。患者さん自身が自分の状態を理解し、適切な食事、運動、ストレス管理、薬物療法を身に付ければ、合併症の発病・進行を防ぐことも可能です。

 われわれ医療スタッフも適切な方法、病態に合った方法で自己管理を援助いたしますが、患者さん自身が「主治医」となって治療する意識が最も重要です。糖尿病は膵臓(すいぞう)で作られるインスリンの量や働きが低下して起こりますが、その程度は個人差があり、糖尿病の経過とともに変化もしますので、同じ患者さんでも血糖値の目標や治療法も変わっていきます。

 県内では一般の医療機関と、糖尿病診療を担う医療機関(専門医、連携医)が連携して治療を進めています。専門医らのいる医療機関は県のホームページ(http://www.pref.nagasaki.jp/iryou/dm/dm1.htm)で紹介しています。大切なご家族のためにも、血糖値が少しでも高いと言われたら、近くの医療機関にぜひ相談してください。

(長崎市坂本1丁目、長崎大学病院生活習慣病予防診療部 准教授  川ア 英二)


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