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2013年8月5日掲載

「乳がんの診断と治療について」


  女性のがん患者数が最も多い乳がんの診断と治療についてお話しします。

 例えば乳房にしこりを自覚した場合、まず触診、マンモグラフィー、超音波検査が行われます。次に必要ならば、穿刺(せんし)吸引細胞診(細い針で細胞を吸引して行う細胞診)、針生検(局所麻酔下で太い特殊な針を使って組織を採取する組織診)が行われます。

 乳がんが疑われた場合、コンピューター断層撮影(CT)によりリンパ節や他臓器への転移の有無を調べ、磁気共鳴画像装置(MRI)で乳房内の病変の広がりを確認します。

 さらに、乳がん細胞にER(エストロゲンレセプター=増殖因子である女性ホルモン・エストロゲンを受け取るタンパク)、PgR(プロゲステロンレセプター=女性ホルモン・プロゲステロンを受け取るタンパク)、HER2(同様のレセプタータンパク)やKi−67(細胞増殖のマーカー)などが見られるかを調べます。それらの結果は治療方針を立てる上で重要な情報となります。

 乳がんの治療法には、局所療法としての手術や放射線療法、全身療法としての化学療法(抗がん剤治療)、ホルモン療法、免疫療法などがあり、どの治療をどの順序で行うかを検討します。

 手術は30年ほど前は、乳房のみならずその下の胸筋も切除し、さらに腋窩(えきか、脇の下)リンパ節も血管や神経を含めて切除していました。ただ、腕が腫れるリンパ浮腫が高確率で起こっていました。その後、胸筋を残す手術や、乳房を部分的に切除して大部分を残す手術(残存乳房への放射線治療が必要)へと変遷してきました。

 リンパ節の摘出でも血管や神経は残すようになり、最近はセンチネルリンパ節(最初にリンパ節転移が始まると思われるリンパ節)に転移がなければ腋窩リンパ節のさらなる摘出を省略する手術法が導入されました。体に負担の少ない方法に変わってきています。

 乳がんは一般的に抗がん剤にも感受性が高いといわれおり、課題となる副作用に対する予防的治療(支持療法)も充実してきました。

 ホルモン療法は主にERが発現している場合に用いられますが、閉経前後で治療内容が異なります。免疫療法はHER2が量的に多い場合に、HER2に対する抗体が投与されます。放射線治療は乳房を残す手術後に施行されるほか、疼痛(とうつう)緩和目的でも使われます。

 乳がんの罹患(りかん)率は日本では増加傾向にあります。乳がんになりやすい年代として40代後半と60代後半の二つのピークがあり、早期発見のためにマンモグラフィーなどの検診を受けることが重要です。

 厚生労働省の調査研究で、検診による死亡率減少の効果が認められています。ただ、乳がん検診の受診率は2007年で約20%と、70%以上の欧米に比べ非常に低いのが現状です。

 40歳以上の方は少なくとも2年に1回の検診が必要です。乳がんの家族歴のある方は30代でも検診が推奨されます。

(長崎市深堀町1丁目、長崎記念病院外科 部長  松尾 光敏)

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