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2013年11月18日掲載

「妊娠健診」


 妊娠と診断されたら、母子健康手帳(母子手帳)の交付を受けて、定期的に妊婦健診を受診することになります。

 母子手帳には「妊婦健診受診票」がついており、現在では、妊婦健診について14回の公費補助が受けられます。公費補助の内容は各市町村で異なりますが、県内では統一されており、自治体間の格差はありません。補助内容は全国的に見ると恵まれているレベルにありますが、健診時期によっては若干の自己負担分が発生します。

 具体的に、本県の健診内容をお示しします。

 まず毎回の健診では検尿、体重、血圧、腹囲、子宮底長、および浮腫の有無をチェックしています。ほかに時期によって血液型、感染症(梅毒、B型肝炎、C型肝炎、エイズ、風疹、クラミジア)、糖尿病、成人T細胞白血病、B群溶連菌などの検査を行います。以上は県内の方は無料で検査が受けられます。

 次に胎児を観察するための超音波検査です。公費補助は妊娠期間中に5回しかありませんので、それ以上の場合は1回につき3千円程度の自己負担をお願いしています。先に述べた自己負担が発生する部分とは主にこの超音波検査の部分です。

 医学的には「妊婦健診のたびに胎児を観察する必要性はない」というのが自己負担の理由ですが、現実的には毎回超音波検査を行うのが一般的になっています。

 それでは、さまざまな健診項目の「意義」について説明します。

 検尿、体重、および血圧は妊娠高血圧症候群を発見するための検査です。妊娠高血圧症候群は重症化すると、胎児発育遅延や胎盤早期?離など、母体、胎児双方を危険な状態に陥れる原因になります。

 腹囲と子宮底長は胎児発育の指標として測定されますが、現在では胎児計測は超音波検査でほぼ正確に行われています。

 感染症は胎児の先天異常に関わっていたり、発育や発達の障害を引き起こす要因になったり、あるいは将来の疾病の原因になったりします。妊娠初期に感染の有無を把握することで胎児への影響を最小限に食い止めることも可能ですので、検査が必要です。

 一例として「成人T細胞白血病(ATL)」があります。ATLはHTLV−Iというウイルスが原因で発症する治療困難な白血病です。地域性があり、本県は鹿児島県とともに流行地域といわれてきました。

 このウイルスは母乳を介して母子感染を起こすことが分かっていましたが、長崎大はいち早く介入試験を実施し、母乳を与えないことでATLの母子感染を高率で阻止できることを突き止めました。現在では人口の移動のため患者の地域偏在がなくなってきており、ATLの検査は全国で行われるようになりました。

 妊婦健診はお産に万全の態勢で取り組めるよう、医療者と行政が協力してつくり上げた「システム」です。妊婦の皆さんは、どうかこのシステムをきちんと利用して出産に臨んでいただきますようお願いいたします。

(長崎市万屋町、牟田産婦人科 院長  牟田 邦夫)




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