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2013年12月2日掲載

「長引くせきの原因は」


 せきは日常診療の中でよく見る症状の一つです。特に日本は世界的に見ても、せきでの医療機関の受診が多い国です。

 せきは外気に通じている気道の中に吸い込まれた異物や貯留した分泌物などを気道の外へ除くための、重要な生体防御反応という大切な機能を持っています。しかし、頻回に持続すると、肉体的、精神的な苦痛の原因ともなります。

 特に治療をしなくても改善するものから、重大な病気の初期症状であることもあり、また呼吸器以外の領域に原因が存在する場合もあります。

 では、見過ごしてはならないせきについて考えてみましょう。

 まずは医療機関を受診するのは、せきがどのくらいの期間続いた場合を目安にすればよいと思われますか。日本呼吸器学会の「咳嗽(がいそう)に関するガイドライン」によると、せきの発症から3週間以上持続するせきを「遷延性咳嗽」「慢性咳嗽」としています。難しく聞きなれない言葉ですが、まさに長引くせきという意味です。

 次に長引くせきの原因として頻度が高いもの、頻度は高くないが重要なものを説明していきましょう。

 最も頻度の高い疾患は、気管支ぜんそく、せきぜんそく、アトピー咳嗽などの気道アレルギーです。軽微な刺激(気圧の低下や温度の変化、花粉や黄砂の飛散、香水や線香、たばこの臭いなど)により、気道が刺激されて収縮しせきを誘発します。このせきが次のせきを誘発するという悪循環により、せきが持続することになります。

 喀痰(かくたん=吐いたたん)中に好酸球と呼ばれるアレルギーの細胞が存在するか、血液検査でのアレルギーの素因を持っているか、呼吸機能検査で息を吐く際の機能の低下がないか、などにより診断し、結果に応じて治療薬を選択します。

 命に関わる可能性のある疾患として、特に注意を要するものに肺がんがあります。問診や診察だけで判断するのは難しく、胸部エックス線、さらに胸部CTによる確認後、気管支鏡検査などで診断していきます。

 現在は減少傾向にあるものの、今でも年間約2万人の新規患者が発生している結核も常に念頭に置いておくべき疾患です。喀痰からの結核菌を検出することで診断が確定されますが、胸部エックス線、喀痰検査を行ってみる必要があります。

 このほか胃食道逆流症といって胃酸の逆流が起きやすい方、慢性鼻炎、慢性副鼻腔(びくう)炎のため分泌物が咽頭、喉頭に流れやすくなっている方、喫煙者、脳血管障害やパーキンソン病など中枢性疾患の合併もしくは後遺症により誤嚥(ごえん)が起きやすい方は注意が必要です。ある種の高血圧治療薬なども、長引くせきの原因となる場合があります。

 原因をはっきりさせることが、正しい治療を選ぶために必要です。せきが出始めて3週間経過しても改善が見られない場合は、呼吸器内科を受診し、原因を調べてみましょう。

(長崎市新地町、市立市民病院呼吸器内科 診療部長  松尾 信子)



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