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2014年5月5日掲載

「眼球突出」

 

 「目は口ほどに物を言う」というように顔の中で人間の感情が最も表れやすい場所が目です。通常、「目が大きい」とか「目が細くて小さい」というのは瞼裂(けんれつ)という上下のまぶたの間が広いか狭いかということで、眼球の大きさを意味しているのではありません。

 目の周りを触ると分かりますが、眼球は眼窩(がんか)と呼ばれる周りを骨で構成されるくぼんだ空間に収められています。眼球と骨の隙間には眼窩脂肪があり、眼球を動かすための筋肉や涙を作るための涙腺があります。さらに眼球は乾かないよう、前方に出すぎないように上下のまぶたで保護されています。

 眼球突出とは眼球が前方に押し出されている状態をいいます。目じり側の眼窩骨の位置から角膜の頂点までの距離(眼窩突出度)は通常10〜16ミリ(日本人平均13ミリ)とされ、17ミリ以上または左右差が2ミリ以上を病的としています。

 眼球突出を起こす原因には、(1)悪性リンパ腫、涙腺腫瘍などの眼窩腫瘍(2)甲状腺眼症、免疫の病気「IgG4関連眼症」などによる炎症(3)感染性、眼窩血流障害−などがあります。眼球の前後方向が長い「強度近視」などでも眼球突出が見られますが、これは通常、病的突出とはいいません。

 眼球突出の代表的疾患が甲状腺機能亢進(こうしん)症(バセドー病)に見られる甲状腺眼症(バセドー眼症)です。しかし、甲状腺眼症は甲状腺に関与している自己抗体が眼窩内の脂肪や筋肉に炎症を引き起こす病気であり、甲状腺機能亢進症だけに起こるとは限りません。甲状腺機能低下症でも、甲状腺機能亢進症が落ち着いて正常状態になっても発症します。つまり、甲状腺眼症は甲状腺機能に関係なく発症するということです。

 甲状腺眼症の初期症状はまぶたの腫れや赤み、結膜充血、眼瞼後退(まぶたがつり上がって目が見開いたようになる)、目の奥の鈍い痛み−です。これが進行すると眼窩内の脂肪増加、筋肉肥大が起きて眼球が突出してきます。さらに目の動きが悪くなるために両目では物が二重に見えたり、緑内障になったり、視神経が圧迫されて失明に至ることもあります。

 甲状腺眼症は特殊な血液検査とコンピューター断層撮影(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)で眼窩内の炎症や筋肉肥大を調べて診断します。治療としてはステロイド剤投与、放射線療法などがありますが、これらはあくまでも眼窩内の炎症を抑えるのが目的です。眼球突出や物が二重に見える症状がすぐに良くなるわけではありません。

 眼球突出が見られる病気は甲状腺眼症をはじめ、悪性リンパ腫やIgG4関連眼症など全身疾患と関係の深い病気が多いので、「最近まぶたが腫れてきた」「目が出てきた」「両目で見ると二重に見える」などいつもと違う目の症状が出てきたときには眼科や内科を受診してみてください。

 「目は口ほどに物を言う」は感情だけでなく、何かの病気のサインを目が語っているのかもしれません。

(東彼東彼杵町、三島眼科医院 院長  三島 一晃)

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