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2014年6月2日掲載

「糖尿病での糖質制」


 糖尿病治療の基本は糖質、タンパク質、脂質の三大栄養素をバランスよく取るカロリー制限食と適度な運動です。それでも血糖値が高ければ、経口血糖降下薬やインスリン注射などで血糖コントロールを行います。

 でも、食材の量や種類を細かく計算するカロリー制限食は手間がかかるものです。書店に「低糖質ダイエット」の本が並び、「糖質を制限するだけ」「肉もお酒も制限不要」と引きつけられる文句があるのを見るとやってみたくなるのではないでしょうか。

 長年全く良くならなかったHbA1c(ヘモグロビンエーワンシー、過去1〜2カ月の平均の血糖値の目安)が糖質制限食により劇的に改善して、減量にも成功することがあります。しかし、糖質制限食に潜むリスクも知っておいてください。

 糖質制限を行うと、体内では脂肪や筋肉のタンパク質を原料にしてブドウ糖を作ります。脳や赤血球がブドウ糖を欲しがるためです。自己流で極端な糖質制限をすると、脂肪ばかりか筋肉量まで減少してしまいます。すぐにHbA1cの改善や減量の効果を実感できても、そのうちに足などの筋力が衰え、階段の上り下りが不自由になることもあります。

 また、糖尿病になってから5年以上血糖コントロールが悪いと、神経障害や網膜症が起こってきますが、それらの合併症のある方が自己流の糖質制限で血糖値を急激に下げるとさまざまな異常が起こります。神経障害による足先のしびれが激しい痛みに変わったり、網膜症での眼底出血が増悪して視力低下につながったりします。

 さらに、糖質制限により不足するカロリーをタンパク質や脂質で補うと、それら栄養素の過剰摂取になります。糖尿病の4割強の方はすでに腎臓の障害があるので、タンパク質をたくさん食べると腎機能がより低下する恐れがあります。脂肪、特に動物性脂肪をたくさん食べるとLDL−C(悪玉コレステロール)が増えて、脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患のリスクを高める可能性もあります。

 バランスのよいカロリー制限食は継続が難しく、極端な糖質制限食は長期にわたればさまざまなリスクを伴う可能性があります。糖尿病の方が長く続けられて、有効かつ安全な栄養のバランスを探ることが、いま臨床の現場で求められています。

 本来、食事は心地よさや幸福感に結びついたものです。おいしいものを食べた時の快感や幸福感を損なわずに、いかに食事量を減らすかというジレンマを解決するのは本当に難しいものです。

 そうした中、4月から2型糖尿病の治療薬「SGLT−2阻害薬」が発売されました。尿中に余分な糖をどんどん排出して血糖を減らし、体重も2〜3キロ減少するという特徴があります。どうしてもカロリーオーバーしてしまうメタボの方に著効すると思われますが、糖質制限食の下での内服は極端な糖質制限となりリスクを伴います。やせ形および虚弱な高齢の糖尿病の方は内服を控えられた方がよいでしょう。

(長崎市岩屋町、山川内科 院長  山川 賢一)

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