2014年7月6日掲載
「運動性無月経と疲労骨折」
2020年に東京でオリンピックが開催されます。それに伴い女性アスリートの健康についてより一層注目されるようになってきました。
今回は産婦人科の立場から、女性特有の、特に中高校生から問題となるスポーツによる障害についてお話ししたいと思います。
女性アスリートの約半数に月経の異常があるといわれています。特に体重が競技に影響するような体操やフィギアスケート、陸上競技などでは、過度なトレーニングによる体重減少により、無月経になることが多いと以前から問題になっていました。
しかし、月経がなければ、月経痛で苦しんだり、貧血になることもありません。トレーニングをやめて体重が増えれば、月経は再開することが多いことから、将来的には問題がないように思われてきました。
ところが、無月経を放置することで、骨がもろくなる骨粗しょう症や、疲労骨折(骨に小さな負荷が繰り返し加わったことで引き起こされる骨折)を起こしやすくなることが分かってきて、警鐘が鳴らされています。
過度なトレーニングや食事制限などで、急激に体重が減ると無月経になります。月経がないのは月経出血がなくなるというだけではありません。卵巣から分泌される女性ホルモンが減ってしまうことが重要なのです。
卵巣から分泌されるホルモンにはプロゲステロン(黄体ホルモン)とエストロゲン(卵胞ホルモン)があります。このうちエストロゲンは月経だけでなく、骨に取り込まれるカルシウムを増やし、骨密度を上げて骨を強くすることにも関わっています。女性が閉経後、急に骨粗しょう症の危険が高くなるのは、このエストロゲンの低下が関係しています。
女性の一生のうち骨密度が最大に増加するのは12歳ごろ、つまり初めて月経を迎える初経の前後といわれています。そのため、この時期に過度なトレーニングなどで体重が減り、無月経になってしまった人は、卵巣から出るエストロゲンが少なく十分な骨密度を増やすことができません。
つまり無月経を放置したまま過度なトレーニングを続けると、疲労骨折を起こしやすくなり、満足な運動ができなくなる恐れがあります。さらに、後にトレーニングをやめて月経が再開しても、この時期を過ぎてから骨密度を増やすことはかなり難しいのです。骨粗しょう症の危険性を背負ったまま、一生を過ごすことになりかねません。
過度なトレーニングによるだけでなく、無理なダイエットやストレスによる無月経が起きた場合も同じ状態になる可能性があります。
治療は適切なカロリー摂取、体重増加、オーバートレーニングの防止に加え、必要な場合は女性ホルモンの補充を行います。
この問題はアスリート本人だけでなく、家族や指導をする立場にある人がこの危険性を知り、早めに対応することが何より大切です。
(長崎市橋口町、宮村医院 医師 黒崎 真紀)
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