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2014年7月21日掲載

「ピロリ菌と胃がんの関係」


 胃がんは早期に発見すれば治すことができる病気−こういわれるようになって随分とたちます。わが国には世界に誇る診断力と治療技術があります。早期胃がんに限定すると内科的な内視鏡切除で完全に治ってしまうこともしばしばです。一方で、今なお年間5万人が胃がんで命を落としているという厳しい現実もあります。

 胃がんの発生に大きく関わっているのが、多くの日本人の胃の粘膜にすむヘリコバクター・ピロリ菌です。テレビや雑誌、新聞報道を通じてピロリ菌は広く知られるようになりました。

 国内では中高年者を中心に約4千万人が感染しており、胃がんの99%以上に関わっているともいわれています。逆にピロリ菌に感染していない人には、ほとんど胃がんが発生しないということも分かっています。

 私は内視鏡検査を行う患者さんには必ずピロリ菌の説明を行いますが、今ではほとんどの方がその名前をご存じですし、患者さん自らが先に質問してくることも少なくありません。

 2013年2月からピロリ菌による慢性胃炎に対する除菌療法が保険適応となりました。ピロリ菌の感染による慢性胃炎の進行が、いろいろな胃の病気の原因であることが明らかとなったからです。黒幕であるピロリ菌を除菌療法により退治することで、その感染を契機に発生する胃がんをはじめとした胃の病気の発症を抑えることが可能となるのです。

 もちろんピロリ菌がいると必ず胃がんになるわけではありませんが、感染による慢性胃炎の経過とともに発がんの率は高くなっていきます。

 慢性胃炎の進行により粘膜が萎縮(萎縮性胃炎)すると、これが胃がん発生の「畑」となります。慢性胃炎を発症しても畑が耕される前であれば胃がんの発生する率は低く、30代までに除菌できればほぼ100%発がんは抑えられるとの報告もあります。

 ただ、除菌も万能というわけではありません。畑が耕されてしまってからの時間が長い(萎縮性胃炎の期間が長い)、つまり高齢になるほど除菌療法の恩恵は小さくなり、60代、70代での胃がん抑制効果は30〜40%にとどまるといわれています。耕されてしまった畑は除菌後も残り、粘膜の回復には時間がかかるからです。高齢になって除菌療法を受けられた方は、その後も胃がんの早期発見のために定期的な内視鏡検査をお勧めしています。

 ピロリ菌の検査のためには、まず内視鏡検査が必要です。感染した場合に特徴的な胃粘膜の変化が確認されれば、その裏付けを取る検査を追加します。これで陽性との結果が得られれば、内服薬の組み合わせによる除菌療法に進み、7〜8割の方が成功します。

 うまくいかなかった方は薬を代えた2次除菌へと進み、これで約9割の方が成功します。現在、保険診療ではここまでしか認められていません。ご自身がピロリ菌を持っているかどうか。それを知ることが胃がん予防の第一歩です。

(長崎市相生町、池田胃腸内科医院 医師  池田 幸紀)

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