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2014年8月4日掲載

「これからの認知症ケア」


 2010年の厚生労働省の発表によると、全国の65歳以上の高齢者の15%、約439万人が認知症と推計され、正常と認知症の中間の状態の高齢者も13%、約380万人に上るとされており、今後15年以上にわたって増加し続けると推測されています。

 国は04年に「痴呆(ちほう)」から「認知症」に呼称を変更し、05年から「認知症を知り地域をつくる10カ年」のキャンペーンを開始。08年には「認知症の医療と生活の質を高める緊急プロジェクト」を実施し、12年には「認知症施策推進5カ年計画」(オレンジプラン、13〜17年度)を示しました。

 オレンジプランでは、従来に「認知症の人は精神科病院や施設を利用せざるを得ない」という考え方を改め、「認知症になっても、本人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域の良い環境で暮らし続けることができる社会」の実現を目指すよう方針を転換しました。

 これまでの認知症ケアは、認知症の進行に伴い発生する問題に対処するのが「ケア」で、「周りがしてあげる」介護でした。「問題は認知症のせいで仕方がない」「認知症になると本人は何も分からない、できない」「環境はどうでもよい」「危険だから外に出さない」−といった考えで、とりあえずその場しのぎの対処、「あきらめのケア」だったといえます。

 これからの認知症ケアは、認知症の初期の段階から関わっていくことが求められています。

 認知症の人でも感情や心身の力は豊かに残っています。家族や地域の人々が一丸となって、認知症の人が住み慣れた地域や自然の中で暮らせるように支えていかなければなりません。

 問題の背景、要因を探り、症状の緩和や憎悪の防止を行い、最後まで認知症の人が自分らしく生きられる支援を行うことが必要なのです。これまでのケアの流れを変える、むしろ逆の流れにすることが求められています。

 そのためには、早期発見と適切な医療の提供が欠かせません。認知症の多くは徐々に進行するため、早期診断は必ずしも容易ではありませんが、脳外科的な正常圧水頭症や硬膜下血腫、脳腫瘍などや、内科的な甲状腺ホルモン欠乏症やビタミン欠乏症などは治療すれば治るものもあります。アルツハイマー型認知症であれば、薬物療法により進行を遅らせることが可能です。

 医療的な取り組みとともに大切なのは、周囲の環境整備です。本人、家族が病気について理解し、受け入れることができれば、認知症に対する対応能力が高まり、不安が軽減できます。家族が適切な介護方法や対処方法を習得するための時間を確保し、病気の進行に合わせ適切にケアすることができるようになれば、認知症の進行抑制にもつなげることができます。

 これらのことを考え、医師会はかかりつけ医の認知症対応能力向上研修などを行っています。物忘れが気になられた方は、まずかかりつけ医の先生にご相談ください。

 (長崎市医師会 理事  中谷 晃)

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