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2014年9月1日掲載

「高齢者の肩関節疾患」


 日本人の平均寿命は男性も80歳を超えましたが、充実した毎日を送るためには健康寿命(介護を必要とせずに自立して生活できる期間)を延ばすことが必要です。そのため、足腰が弱ってきたと感じたらロコモティブシンドローム(寝たきりや介護が必要になる危険性の高い状態)のチェックを受け、体幹や下肢など体を支える機能を維持、向上させることが重要になります。骨粗しょう症への対策も必要です。

 一方、より質の高い生活のためには上肢の機能も欠かせません。肩関節の痛みのために日常生活動作が制限されている高齢の方も多いのです。そこで今回は高齢者に見られる代表的な肩関節疾患を説明します。

 肩の動きは他の関節と比べ、より多くの筋肉・骨・靱帯(じんたい)が関係します。なかでも腱板(けんばん)と呼ばれる肩甲骨と上腕骨をつなぐ四つの筋肉、上腕骨と肩甲骨の間の関節が特に重要となります。

 (1)腱板の障害
 腱板は年齢とともに変性が進むため、明らかなけががなくても断裂している方がたくさんおられます。また、断裂に至らなくても筋肉としての機能が低下して症状が現れることもあります。

 腱板が障害されると肩のスムーズな動きができなくなるため、上肢を挙上していくと途中で痛みや引っ掛かりを感じます。「テーブルの先の物を取ろうと手を伸ばすと肩に痛みを感じる」といった症状です。まれに痛みや筋力の低下が原因でバンザイができなくなったり、寝られなくなるほどの強い痛みが続いたりするケースもあります。

 診断には超音波検査や磁気共鳴画像装置(MRI)などが有用です。治療は痛みに対して鎮痛剤の内服や肩関節への注射が行われます。併せて物理療法や腱板の機能訓練も必要になります。

 一度断裂した腱板が自然につながることはありませんが、多くの場合これらの治療で症状は軽減します。症状が治まらず生活に困っている方には、関節鏡という内視鏡を用いた手術が適応になります。

 (2)関節の変形
 体重のかかる膝関節や股関節に比べて発生頻度は少ないですが、肩にも変形性関節症が発症します。肩を動かした際の痛みと動きの制限が主な症状で、徐々に増悪していきます。

 エックス線撮影で診断可能です。治療は鎮痛剤の内服や温熱療法などの物理療法に加え、日常生活動作を維持するためにリハビリが行われます。症状によっては肩関節への注射も効果的です。ただ、関節の変形は徐々に進行しますので、耐え難い痛みや動きの制限により日常生活に大きな障害を認めるときは、人工関節手術が行われます。

 肩に痛みがある場合、五十肩と思って放置している方も多いようですが、五十肩は40〜60歳に好発する疾患で、高齢の方には少ないようです。肩の痛みの中には首や内臓の病気が隠れていることもあります。的確な診断と適切な治療を受けるために、医療機関に相談されることをお勧めします。

(長崎市中園町、古川宮田整形外科内科クリニック 院長  古川 敬三)

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