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2014年9月15日掲載

「生命予後脅かす大腿骨頸部骨折」


 骨粗しょう症はちょっとしたことで骨折しやすくなる骨の強度が低下する病気です。これに起因して股関節の付け根部分を折ると、歩行能力は著しく損なわれます。これが大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折です。

 最近、この骨折が増え続けています。全国での年間発生数は1987年に約5万3千人でしたが、2007年には約14万8千人と、20年間で2・8倍に増加しています。発生率は年齢が高くなるほど上昇し、女性は男性の約3倍の頻度で発生しています。

 「高齢者が転んで立てなくなった」と聞いた際、われわれ医師はまず大腿骨頸部骨折を疑います。この骨折の9割が転倒をきっかけに発生するからです。大腿骨頸部を骨折すると股関節に強い痛みが生じ、自分では立ち上がれなくなります。また骨折部を触ったり、足を動かすと相当な痛みが出現します。たとえ最初は歩けたとしても、股関節の痛みが続く場合は医師の診察を受けることをお勧めします。

 ほとんどの場合は初回エックス線検査で診断がつきますが、骨折部にずれがないと、1、2週間後の検査で判明することもあります。最近は磁気共鳴画像装置(MRI)を使って調べる場合もあります。

 大腿骨頸部骨折はもともと骨がもろくなって発生している上に、立つことで折れた部分に負荷がかかるため、骨がくっつきにくいといわれています。手術を行わない保存療法では骨癒合(骨がくっつくこと)まで長期間かかったり、癒合しなかったりするため、90%以上の方に手術が行われます。

 手術は金属を使って骨をくっつける骨接合術と、骨折した大腿骨頭を金属に置き換える人工物置換術があります。合併症を防ぐため、手術後は一日も早く歩行能力を取り戻す訓練を始める必要があります。

 リハビリ期間は受傷前の身体能力にもよりますので、入院期間は人によって異なります。受傷前に元気に歩いていた方は1カ月以内で自宅に戻ることも可能です。もともと何らかの歩行障害のあった方は長期のリハビリが必要なため、手術の1、2週間後にはリハビリ専門病院に移ることになります。この場合、術後2、3カ月で自宅に戻ることを目標とします。

 こうした治療体系になっていますが、大腿骨頸部骨折の方の50%以上が元の歩行能力を取り戻せないのが現状です。年間約2万6千人の方が自由な外出ができなくなり、約2万人の方が要介護になるという推計があります。さらに残念なのは大腿骨頸部骨折の患者さんの10%以上が、骨折して1年以内に死亡したという報告があることです。

 このように大腿骨頸部骨折を起こすこと自体が生命予後を脅かすことになります。したがって骨折を予防しなければなりません。骨粗しょう症を改善したり、歩行補助具を利用したりする必要があります。近年は骨粗しょう症の新薬も多数開発されています。ぜひ、ご自分の骨密度(骨の強度の指標)を測り、適切な治療を受けるべく近隣の医師にご相談ください。

(西彼時津町浜田郷、えのもと整形外科 院長  榎本 寛)

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